複数の収益モデルを持つことが重要

――CASEによって通信、ハイテク、金融、エネルギーの各業界で新たな事業機会が生まれると考えられています。しかし、早期に事業化に着手した次世代モビリティの企業が経営破綻したり、必ずしもすべてはうまくいっていないようですが。

北村 そうですね。考えなければならないのは、例えば、エネルギーの活用法においても、電気自動車に蓄えた電力を家庭用に有効活用する「V2H」か、あるいは、オフィスビルやマンションに電気自動車から給電する「V2B」か、電力系統へ放電する「V2G」か、いろいろなキャッシュポイントがあるということです。それらの中から最も有利なサービスを選択することが重要です。

 さらにいうと、例えば、同じ一台のライドシェアのクルマが「乗客向け移動サービス」、「個宅向け物流サービス」、「電力充放電サービス」のどれを選べばいいのかは、その時々の状況に応じて目まぐるしく変わるはずです。こうしたことを選択できることまで見据えてモビリティサービスの収益モデルを構築していくことも重要な点ではないでしょうか。いろいろなマネタイズポイントを持ちながら、今何を選択すべきかをきちんと捉えていくことが必要です。

 同じようにモビリティ戦略でも、1つのビジネスモデルではなく、複数のビジネスモデルを持ち、臨機応変に乗り換えていくポートフォリオマネジメントといった観点が非常に重要になると思います。

都市交通のプラットフォーマーが重要度を増す理由

――ソフトバンクは、グーグルなどのIT巨大企業と異なるアプローチでモビリティのメガプレーヤーに躍り出ています。同社のモビリティ戦略について教えてください。

北村 一言でいうと、ドライバーが運転するクルマを複数人でシェアする「ライドシェアサービス」を足がかりに、都市交通のプラットフォーマーを目指すというものです。すでにライドシェアサービスでは、北米のウーバー、中国の滴滴出行、インドのオラ、東南アジアのグラブと、各地域でトップシェアを握るプレイヤーに出資しています。つまり、ソフトバンクが事実上、世界の主要ライドシェアプレイヤーを束ねているというわけです。

 この戦略によって、自動車メーカーやそのサプライヤー、各種サービス・プロバイダーに対しての発言力が大きくなると想定されます。ソフトバンク傘下のウーバー、グラブ、滴滴出行、オラのドライバー(登録ドライバー)の合計数は現在3000万人超とも言われます。言い換えれば、3000万台超の車両が稼働しているわけです。仮に、このプラットフォームに適した標準車両が設定されれば、自動車メーカーにとって超巨大なマーケットになるでしょう。

 ソフトバンクは、「ライドシェアに適した車両要件は何か」の答えを持てる立場に既にいると考えられます。いずれ自動車メーカーに対して「こういうクルマを作ってほしい」と要求するようになるかもしれません。そうなれば、従来の主従関係が逆転する可能性もあります。