●前提を疑う

 企業の業績を回復させようとするとき、私はいつも、その企業の前提を疑うことから始める。

 ある小売店チェーンの場合、私は買い物客のふりをして店舗を数十軒まわってみた。ほどなく、この企業が顧客の可処分所得を実際よりもはるかに多く見積もっていることに気づいた。この誤った信念のせいで、衣料品の価格設定を高くしすぎていたのだ。もっと低価格のシャツやズボンを販売していたら、年間、数百万ドル多く稼げただろう。

 もちろん、何もかも疑っていたらきりがない。たとえば一日中、こう自問していたらどうなるだろう。空は本当に青い? もしいま、隣にいる人が同僚ではなくて彼女の双子の姉妹だったらどうする? 明日、経済が破綻しないとどうして言える?

 だから、前提を疑う最初のステップは、どこで前提を疑うかを見極めることである。特に大きな利害がかかっているとき、このアプローチは有用だ。

 何年も労力と費用を注ぐことになる長期的な企業戦略を話し合うときには必ず、あなた自身の信念に基本的な問いを投げかけてほしい。将来、取引が増えると、どうして言えるのか。あなたの立てた市場予測を支える研究報告はあるか。「ミステリーショッパー(客を装った覆面調査員)」として、顧客の立場になってみる時間を取ったか。

 自分の前提を疑うもう1つの方法は、別の可能性を考えてみることだ。もしクライアントが変わったら? もしサプライヤーが倒産したら? こうした問いを通して、あなたの思考に磨きをかける新たな重要な視点が得られるだろう。

 ●論理的に推論する

 何年も前、ある大手ランジェリー会社の一部門の業績回復に取り組んだことがある。主要な生産ラインの1つにおいて、何年も成長が低下しているのに、誰も原因を解明できずにいた。

 私たちが明らかにしたのは、会社が、過度の一般化という推論の過ちを犯していたことだった。限られた不十分な根拠によって、おおざっぱな結論を出していたのだ。

 彼らは、世界の顧客のランジェリーの好みは皆似たようなものだと思い込んでいた。そのため、欧州各地の全店舗に同じタイプのブラジャーを出荷していたのである。

 私のチームがスタッフや顧客と話してみると、国によって顧客の趣味や好みに非常に顕著な違いがあることがわかった。たとえば英国の女性はレース付きの明るい色のブラジャーを買う傾向があり、イタリアの女性はレースのないベージュのブラジャーを好んでいた。また、米国の女性はスポーツブラの購入数では世界一だった。 

 このランジェリー会社は、推論を改めることで飛躍的に最終収益が向上した。幸い、論理学の正式な実践は少なくとも2000年以上前、アリストテレスの時代にまでさかのぼる。過去2000年以上、論理学は健全な結論を導き出して、その価値を証明してきたのである。

 したがって、あなたの組織では、特定の主張が組み立てる論理の「連鎖」によく注意してほしい。主張の一つひとつの点について、裏づける根拠があるだろうか。一つひとつの根拠が正しく組み合わさって、健全な結論を生み出しているだろうか。

 また、よくある誤謬を意識すると、より論理的に思考できる。たとえば、人がよく陥るのは「前後即因果(ポストホック)」の誤謬だ。「事象Yは事象Xに続いて起きたので、事象Yの原因は事象Xに違いない」と考えがちなのだ。

 たとえば、あるマネジャーは、春に販売代理店の売上げが伸びたのは、2月の年次営業会議でモチベーションを上げるスピーチをして、発破をかけたからだと思うかもしれない。だが、これは検証してみなければ、彼の考えが正しいのかどうかわからない。

 ●思考と協働の多様性を追求する

 私は長年、マッキンゼーの変革チームで唯一の女性パートナーだった。現在は6社以上の取締役会の役員だが、たいてい会議では唯一のアジア系で、唯一の女性だ。

 そうした生い立ちと人生経験のおかげで、私は周囲の人とは違う物の見方をしていることが多い。そのことはしばしば、私に有利に働いてきた。

 とはいえ、私も集団思考に影響されないわけではない。年齢、政治、宗教など何らかの点で自分に近い人々の中にいるときには、私は異なる視点に立つように努めることにしている。そのほうが、豊かな思考ができるからだ。

 人が自分と考えや行動が似ている人とグループをつくろうとするのは、自然なことである。特に、特定のニッチな文化的空間が簡単に見つかるインターネットではそうだ。ソーシャルメディアのアルゴリズムは、個人の信念に合うニュースばかりを提供して、私たちの視野をいっそう狭めている。

 これは問題である。付き合う範囲の人々が皆、同じ考え方だと、私たちの思考は硬直し、新しい情報に基づいて信念を変えることが少なくなる。それどころか、研究によると、同じ意見の人の話を聞けば聞くほど、意見は極端化していく

 自分の狭い枠から踏み出すことは、とても大切だ。小さなことから始めればよい。経理部門で働いているなら、マーケティング部門に友人をつくろう。いつも先輩と昼食に行くなら、後輩と野球の試合を見に行こう。そのように自分を訓練していると、自分の普段の思考から抜け出して、より豊かな洞察ができるようになる。

 チームにおいては、メンバーが集団に影響されずに、独立して意見を表明できるチャンスをつくろう。たとえば私は、チームにアドバイスを求めるとき、自分の好みは明らかにしないで、メンバーに自分の意見を個別にメールしてもらっている。この方法なら、メンバーが集団思考に陥ることを防ぐことができる。

 こうした基本的戦術は、簡単で言うまでもないことのように聞こえるかもしれない。しかし、特にビジネスの世界ではほとんど実践されていない。また、しっかりと論理立てて推論する時間を取ろうとしない企業が多すぎる。

 だが、クリティカルシンキングという重要な作業は必ず報われる。企業の成功には大なり小なり運が働くとはいえ、最も重要なビジネスの勝利は、賢明な思考を通してこそ実現するのだ。


HBR.org原文:3 Simple Habits to Improve Your Critical Thinking, May 06, 2019.

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ヘレン・リー・ブイグ (Helen Lee Bouygues)
パリを拠点とするリブート・ファンデーションの会長。マッキンゼー・アンド・カンパニー元パートナー。これまで十数社で暫定CEO、CFO、COOを務めている。