2.テクノロジー神話の壁の克服

 次に、[2. テクノロジー神話の壁]の克服についてである。克服の視点としては、“人からテクノロジーへの代替”と“テクロノジーによる人の能力の強化”の2つがある。

 まず1つ目の視点の“代替”について述べる。「“AIという言葉に代表される最新のテクノロジーさえ取り入れれば、何もせずに人いらずで、最適化がなされる”というようなテクノロジー神話とも言うべき誤解を持つべきでない」ことは前述の通りであるが、その逆の議論として、AIなどの最新のテクノロジーの活用に対して、「従業員が考えなくなる」「現場力が落ちる」「その企業らしさが失われる」、というような声もよく聞く。

 一見もっともらしい意見にも聞こえるが、例えば、小売業の在庫コントロールにおける「多くの店舗と膨大な点数があり日々刻々と変化する個々の商品の需要を予測し、サプライヤーへの発注数、倉庫・店舗間の在庫移動数を算出する」定常オペレーション業務は、人間が高い能力を発揮し、企業らしさを顧客に打ち出している業務なのだろうか? この業務に求められる要件としては、各店舗・各商品の1つ1つについて、販売力と今後の変動、現在庫、入荷までの所要期間を考慮して、追加の必要数を計算するというものであるが、1件あたりの計算の複雑さの観点からも、日次・週次などの頻度で定常的に計算することになる対象の件数の多さの観点からも、人間にそぐう業務とは考えにくい。人間では短時間に正確な計算は到底できない上に、非常に時間もかかってしまう。いわば、電卓が誕生した後も、時間をかけての手計算を強要し続けているようなものである。

 この業務が、顧客との接点を担い、企業らしさを打ち出し、その企業の競争力の源泉となるような業務であれば、従業員の貴重な時間の多くを定常的に投下することも正当化されるが、そうでなければ、こういった業務は、業務の精度を上げるためにも、貴重な従業員の時間をより人間が高い能力を発揮できうる接客や陳列、品揃えなどの付加価値の高い業務に振り向けるためにも、AIなどの最新のデジタルテクノロジーの活用が望まれる。

 これは、コンビニエンスストアの24時間営業の見直しに象徴される小売業界における深刻な昨今の人手不足への打ち手としても望まれる方向性であるが、単なる工数削減を超えて、多くの従業員をルーチンワークから解放し、人間の創造性を発揮できよりモチベーションが湧く仕事へのシフトを促すものとなる。

 ただし、ここで誤解の無いように正しく伝えたいのは、たとえ人間にそぐわない部分が多い業務についても、ゼロイチで完全な自動化(無人化)を奨めているわけではないことである。

 上述の発注・在庫コントロール領域においても、メーカーの初期生産量が少なく全店舗に配備することのできない新商品をどの店舗に初期配備するか、ライフサイクル後期の商品をどこに集約して売り切るか、というような意思と販売施策と連動させるような戦略的な判断は人間がすべきであるし、その領域に適用したデジタルソリューションの成果を継続的に測定し、効果が損なわれないよう市場環境の変化に対応させる形で、ソリューション導入時に初期設定したパラメータや諸条件を適宜、見直していくことも人間に求められることである。

 そう、2つ目の視点の“テクロノジーによる人の能力の強化”に関わるところであるが、そもそも、テクノロジーor人間の二元論で捉える必要はなく、むしろ、テクノロジー×人間の視点で、例えば、発注や在庫移動業務のベースとなる素案はシステムが提示し、それを人間が吟味することで、より判断を高度化させることができる。また、その人間の意思決定についても、その後、データで振り返るようにすることで、人間の判断力を更に研ぎ澄ませることができるのである。また、暗黙知的に企業内に眠っている熟練のスキルを吸い上げたデジタルソリューションを構築し企業内に展開することで、平均の底上げもその人材の異動・退職後のスキルの継承も実現することができるのである。