俗説その1:戦略とは長期的なものである

 もっともらしい理由

 業界によっては、競争の基盤が数十年間も変わらずにいる場合がある。このため、景気が上向きのときも低迷しているときも、みずからの戦略に固執し外部の雑音に耳を傾けないリーダーが、非常に優れた成果を上げることがある。

 誤りである理由

 戦略に変化が生じるのは、業界についての長きにわたる思い込みに疑問が呈される、まさにそのときだ。そしてそのような変化は、きわめて迅速に実行に移す必要がある。戦略をある種の長期的コミットメントとして考えると、すぐに変更する必要性が見えなくなる場合がある。

 戦略とは、長期や短期の問題ではなく、ビジネスを機能させるうえでの「ファンダメンタルズ」――価値創出の源、それを達成するうえでのコスト要因、競争の基盤――に関するものである。成すべき戦略をしっかり把握するためには、思考の時間軸を長くする必要はない。思考の「深さ」こそが必要だ。

 戦略とは、将来実行しようとする何かに関するものでは、けっしてない。将来を自分たちに有利となるよう形づくるために、「いま」何を実行するのかということなのである。

 俗説その2:破壊的変化を起こす企業は、常に戦略を変えている

 もっともらしい理由

 アマゾンやグーグル、フェイスブックのような巨大プラットフォーマーは、戦略を変え続けているかのように見える。自社が上げる莫大な額の収入をイノベーションにつぎ込み、新しい製品やサービスを毎年発表しているからだ。

「イノベーション」は、「戦略的方向性の変更」と混同されやすい。だが時として、実際にそのような変更を引き起こすこともある。

 誤りである理由

 アマゾンとその他の大手テクノロジー企業の場合は、革新的な新製品・サービスのほとんどは、1つの一貫した戦略を反映している。それは、ビジネスパーソンにとっては少なくとも1960年代から馴染み深いものだ。

 当時、ボストン コンサルティング グループの創業者ブルース・ヘンダーソンは、多くの事業で「コストは、累積生産量が倍増するごとに予測可能な割合で低下する」ことを見出した。つまり、このようなコスト低下を見越した価格設定を事前に行うことで、当面の利幅を犠牲にしてシェアを獲得し、市場でのリーダーシップを達成した後に、利益を手にすることができる。この戦略は、「価格を抑えて生産量を増やせ」という原則としてとらえられた。

 今日のプラットフォーム・ビジネスが行っているのは、基本的にこれと同じだ。実際には「ブリッツスケーリング(blitzscaling)」とか「ハイパーグロース(hypergrowth)」といった、もっと派手な言葉を用いて、いくらかの工夫を加えてはいるが。

 たとえば、今日のプラットフォーム・ビジネスでは、「無料でばらまいてユーザーを増やせ」という原則があるかもしれない。だがそれは、半世紀以上も昔の戦略を、もっと過激な形で再現したにすぎないのだ。

 俗説その3:競争優位性は終わった

 もっともらしい理由

 優位性が持続しうる期間は短くなっている、というエビデンスがある。これが示唆するのは、他社の攻撃を防御するのがより困難であり、ひいては防護壁がより脆弱で突破しやすくなっているということだ。ある市場評論家によれば、S&P500社の平均存続年数は、1964年の33年から2016年には24年に短縮されたという。

 誤りである理由

 競争優位性の終焉に関する報告は、大いに誇張されている。アマゾン、アルファベット、アップル、フェイスブック、マイクロソフトの競争優位性はあまりに巨大であり、これらの企業に打ち勝つために乗り越えるべき障壁は、あまりに高い。このため世間では、彼らを解体して力を抑えるような、規制の行使をめぐる議論が展開されている。これらの企業を市場の力だけで制御できると考えるのは、あっという間に困難になった。

 本当のところは、競争優位性は終わったわけではない。ただ1つの優位性ではなく、複数の優位性に拠って立つ必要があるのだ。そしてアマゾンの座を奪うのが困難な理由の一部は、同社がそれを実現してきたからである。1つの大きな壁の構築に賭けるのではなく、より小さな壁をたくさん築いているのだ。

 俗説その4:戦略は、実は必要ではない。アジャイルでさえあればよい

 もっともらしい理由

 俊敏(アジャイル)な企業、とりわけスタートアップは、常に急な方向転換をしており、実際にいかなる計画にも従っていないように見える。ゆえに、俊敏な企業がやっているのは、ハイスピードで行動し、速いテンポを維持し、きわめて速く反応することがすべてである、という思い込みが生じるのも無理はない。

 誤りである理由

 俊敏さは戦略ではない。経営にただちに貢献する、非常に価値ある「能力」である。だが、その能力をどこに向けるか適切な決定を下す戦略家がいなければ、自社の競争力に恒久的な影響を及ぼすことはできない。そして成功を収めているスタートアップは、一見して計画がないように思われても、戦略を持たないわけではない。

 戦略は計画ではなく、意思決定の枠組みなのだ。すなわち、状況の進展に応じて適用可能な、一連の指針である。そして、ほとんどのスタートアップが失敗する理由は、「急な方向転換が可能である」ことは「正しい方向に転換できる」という意味ではないからだ。

 成功を収めているスタートアップは、実際には事業のファンダメンタルズについて何度も熟考を重ね、基本的な前提に疑問を投げかけて厳密に検証している。それは、既存企業が見習ったほうがよいほどである。

 スタートアップがそうする必要がある理由は、きわめてリソースに乏しいからだ。首尾一貫した戦略を持たないスタートアップは、リソースの割り当てについて、お粗末な決定を下すだろう。それは彼らにとって、業績の悪化ではなく、死を意味する。

 俗説その5:どの企業にもデジタル戦略が必要である

 もっともらしい理由

 デジタル技術とは、情報を収集し、保存し、利用する手法であり、情報はそこかしこにある。初めのうちは、人がすでにやっていた作業を、デジタル技術によってもう少し巧みに実行できる程度だった。次に、その実行能力は格段に高まり、その後、人がやったことのない物事を実行可能になった。

 いまや、その可能性にワクワクさせられると同時に、混乱もさせられる。人は混乱を感じると、物事を整理して意味づけしようと努め、どうすべきか決める方法を探すものだ。こうして、デジタル戦略が叫ばれるのである。

 誤りである理由

 企業とは有機体であり、部分的な最適化は全体の最適化にはつながらない。デジタル、IT、財務、人事や、その他特定の分野に特化した戦略を求めるのではなく、ただ「事業戦略」を求めるべきだ。したがって、事業のデジタル部分に特化した戦略を策定し、他は放っておけばよいなどと思ってはならない。

 デジタル技術と、それが生み出す個々の技術群は、顧客価値の源泉と、それを提供するコストを根本的に変化させる。自社のビジネスモデルについて自分が信じているすべての基本前提を、徹底的に考えて整理し、それらが依然として有効かどうかを自問する――これが、デジタルに対処する方法である。そしてそれこそが常に、「戦略」というものなのだ。

 この不確かな世界では、ファンダメンタルズは変化し続けている。このため我々は、それらが短期的または長期的に有効か否かを検討する必要がある。競争上の地位を守るために、自社の組織能力をいかに展開し、新たに必要な能力をいかに構築できるかを、考えることだ。

 能力を積み重ねて障壁をつくろう。何がインパクトをもたらすのかをはっきりさせて、リソース割り当ての決定を迅速に下せるようにしよう。顧客との接点で予想外の出来事が発生しないか、目を光らせていよう。その出来事をチャンスとして意図的に活かせるかもしれない。短い試合での勝利を長期的な繁栄につなげるためにプレーしよう。迅速に行動するために、深く考えよう。

 戦略は、いまも昔と変わらない。それは、最も困難な条件の圧力の下で、行動を起こすための技法なのだ。


HBR.org原文:5 Myths About Strategy, April 19, 2019.

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スティーブン・バンギー(Stephen Bungay)
ロンドンにあるアシュリッジ・ストラテジック・マネジメント・センターのディレクター。著書にThe Art of Action: How Leaders Close the Gaps Between Plans, Actions and Results がある。