●母乳育児中の従業員たちへのサポートを喚起する

 シニアリーダーが母乳育児をしている従業員へのサポートを明示することは、法とベストプラクティスが必須と定めることを実施する、と確実に伝える強力な後押しとなる。また、母乳育児をしている従業員同士がサポートし合うピアサポートプログラムを設けるのも、よりよい職場環境構築の一手だろう。

 ●十分なスペースを提供する

 プライバシーを保てる搾乳スペースの確保は、費用のかかる工事や建物の再設計が必要なのではないかと不安に感じる雇用主もいるだろう。しかし、そんな大それたことは必要ない。いたってシンプルな策を講じることで、必要なスペースは確保できる。

 たとえば、ふだん仕切られたキュービクルで仕事をしている従業員が、あまり使われていない会議室や部屋を予約できるようにするのは一案だ。また、必要な物を置いておける清潔なクローゼット一人用の更衣室、あるいは他に選択肢がない場合は、折りたたみ式のテントや持ち運び可能な間仕切りなどを備えておくという手もある。

 他人の視界から遮られ、侵入できないように工夫すれば、十分と言えるだろう。ただし、トイレは雑菌に満ちているため、乳児に飲ませる母乳を準備する場にはなりえない。

 気軽さや効率性の面から、ふだんの仕事スペースでの搾乳を希望する従業員の場合、あまりに職場環境に混乱をきたさない範囲であれば、本人の希望を尊重すべきだろう。

 ●快適に過ごせるように基本的な設備を設ける

 搾乳スペースには、椅子を常備し、搾乳器を置ける平面の場を設け、コンセントや延長コードの設置が必要だ。搾った母乳は、会社が管理する冷蔵庫に保管できるようにし(米疾病管理予防センターは安全性を認めている)、それが現実的でない場合は、保冷箱を用意して安全な場所で保管できるようにしよう。手や搾乳器の部品を洗浄できるよう、容易に手の届く場所に水道設備を設けよう。リクライニングチェアや明るすぎず心地よい照明、また病院で使われるような高性能の搾乳器など、従業員が快適に搾乳できる設備があれば、なお望ましいだろう。

 ●適切な休息の時間を提供する

 それぞれの授乳スケジュールや生理的ニーズにもよるが、ほとんどの授乳中の母親は、8時間の労働時間のうち2~3回の搾乳を必要とする。通常、搾乳にかかる時間は、1回15~20分だが、ときにはそれ以上の時間を要する。搾乳スペースへの行き来や、搾乳器の準備・解体・洗浄、母乳を保管する作業などの時間もかかるため、効率よく作業をこなせるように、さまざまな設備を充実させ、搾乳場所の配置を工夫することが重要となる。

 ●搾乳のための休息を理由とした減給は避ける

 搾乳を目的とする休息時間に対して、法的に給与を支給すべきか否かは、その従業員の職場がどの州にあるか、他の理由で取る休息を会社がどう扱っているか、残業免除の対象かどうか、その他さまざまな要因で変わってくる。しかし、搾乳のために席を離れる時間に対する給与を差し引き、減給することは避ける、というのがベストプラクティスだ。減給すると、もともと給与額が低い従業員は搾乳をやめざるを得ない状況に追い込まれ、従業員間の不平等が生まれ、会社は母乳育児に協力的な方針による恩恵を受けられなくなる。

 ●必要に応じて、他の適切な対処をする

 母乳育児をしている従業員には、さらなる対応が必要な場合がある。頻繁に出張する、タイトな制服を着る、あるいは有害物質の近くで働いている、などの場合である。カギとなるのは、業務に過度な弊害をきたすことなく、従業員の身体的なニーズを満たす実行可能なソリューションにたどり着くよう、従業員と双方向の対話の機会を持つことだ。

 ●可能な限り、直接的な授乳を許可する

 医療的な理由や、絆を育む目的で、子どもに直接母乳を与えることを希望する従業員もいるだろう。職場が危険である、距離的な問題があるなど、現実的でない場合もあるが、多くのシチュエーションにおいて、直接授乳できるよう便宜を図ることは十分可能であり、できるだけ希望に沿うようにすべきだ。職場へ子どもを連れて来ることを許可する、一時的に職場から離れる許可を与える、などの対策を取るとよいだろう。

 職場で子どもに直接母乳を与えることを禁止され、退社したある母親は、それを差別だと主張して、勤めていた会社を訴えた。その裁判で、裁判官はこう指摘している。「人目につかずに母乳を絞るために設けられたスペースでの休息中、搾乳することと直接授乳することの間に有意な違いを見出すのは難しい」

 ●授乳に対する会社の方針を文書化し、要請の手順を添えて発行する

 会社の方針を明文化することで、従業員が何かを希望し、要請する際、マネジャーや監督者、人事担当者などが、その要請に対して、公平さと一貫性を保ち、かつ法律に添って対応することが確実となる。

 これは、会社が法的に責任を問われる事態を防止できるだけではない。従業員が自分のニーズを安心して要求するとともに、そのニーズが、適切な対応に必要な情報を会社にもたらす形で満たされるのも確実となる。また、方針を明文化することで、会社が母乳育児を真剣にサポートしているというメッセージを伝えることができる。

 このような取り組みに着手したいと思っている人は、米保健福祉省の女性健康課が提供する方針サンプルを参照するとよいだろう。

 ●意思決定の権限を持つ人材を教育する

 監督者やマネジャー、人事担当者に対して、授乳に関する方針や授乳を行なっている従業員のニーズについて教育することは不可欠だ。最近親となり、授乳を実体験している人でない限り、教育なくして母乳育児を行う従業員のニーズを理解するのは難しいだろう。

 会社が管理職の従業員に対して、心身障害、家族、病気休暇に関連した便宜を求める要請を真剣に受け止めるよう教育を徹底するのと同様に、監督者やマネジャーが、授乳(そして妊娠)に関わる便宜への要請に対して、適切な対応ができるよう教育すべきである。それには、対応に困った場合、人事部にコンタクトを取って助言を求めることも含まれる。人事担当者も、授乳期にある従業員の健康や仕事上のニーズ、また彼女たちをサポートして、確保することのビジネス上の価値を理解できるよう、徹底した教育が必要である。

 冒頭のパラメディックのクラークが人事部長に、2〜3時間おきの搾乳が必要だと伝えところ、彼から返ってきた言葉は「それは搾乳しすぎじゃないかな」というものだった。新生児がいる場合は定期的搾乳が普通だと説明すると、彼はこう言った。「それでは君は任務を全うできないと思われる」。これらの発言は当然、法廷で明らかにされ、裁判官と陪審員によって差別があったと判断される結果となった。

 母乳育児をしている親の抱えるニーズは、けっして複雑ではない。しかし、理解の欠如は極めて複雑かつ費用のかかる問題に発展しかねない。


HBR.ORG原文:How Companies Can Support Breastfeeding Employees, April 30, 2019.

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リズ・モリス(Liz Morris)
センター・フォー・ワークライフ・ローのセンター長。カリフォルニア大学ヘイスティングス・ロー・スクール非常勤法学教授。研究および活動の中心は雇用法、ジェンダー平等、およびワーク・ライフ・バランス。

シンシア・トーマス・カルバート(Cynthia Thomas Calvert)
Workforce 21Cプレジデント。雇用主には妊娠中の従業員の管理面で、従業員には家庭責任の面でサポートを提供している。センター・フォー・ワークライフ・ローの上級アドバイザーも務める。

ジェシカ・リー(Jessica Lee)
センター・フォー・ワークライフ・ローの専任弁護士。雇用と教育の現場で家庭責任を負うことに対する差別を研究し、差別撤廃の活動をしている。