「セルフドライブ・エンタープライズ」のトレンドと人間が注力すべき領域をどう考えるか?

 最後に、SCMに携わる皆様の間でも新しいバズワードになりつつある「セルフドライブ・エンタープライズ」についても考えを述べておきたい。「セルフドライブ・エンタープライズ」とは文字通り企業のコア業務を自走化するというコンセプトであり、従い正確にはSCM領域に限った概念ではないが、特にSCMに関連する部分でS&OP業務の「セルフドライブ化」に取り組んでいる先進企業は欧州発グローバル企業を中心に出はじめているようだ。

 S&OP計画・分析系の業務のうち、セオリーとしては単純×小インパクトの判断を中心にルール化した上でAIに任せ、S&OP業務を文字通り自走化させていこうというものだ。AIが判断したオペレーションのオーダー(発注・在庫移転・出荷)は自動的に複数の実行系ERPに転送され、インスタンスを跨いだEPRをバーチャルに一元コントロールする。人間はダッシュボード上でサマリーの確認とAIが推奨する実行オーダー推奨に対する必要に応じた最終判断を行うだけでよい。慢性的な人材不足の折「セルフドライブ化」による省人化は多くの企業にとって望ましい方向性に思えるが、実際にはAIとの棲み分けで人間が行う仕事の再定義が必要になる。

 一つの方向性は「データ見える化部隊」の設置・強化である。前述のように「コントロールタワー機能」の確立の最大の壁は今もって供給網のデータによる完全な可視化である。IOT等の新設テクノロジー活用による自動的データ取得はできる限り推進すべきだが、ROIの制限の中では最新テクノロジー活用だけが完全解には当面なり得ない。より実践的な解としては可視化・データの健全性の担保にこそサプライネットワークの「セルフドライブ化」によって余力創出できたオペレーション人材を投入すべきであろう。「コントロールタワー機能」の入り口で収集されるデータが正確であって初めて、我々は安心してサプライチェーンコントロールの「セルフドライブ化」を推進できる。

<まとめ>

●デジタル時代のビジネスの特徴である「短くて早い事業サイクル」に対応すべく、供給網は疎結合しているネットワークとして構え、コントロールタワーによって一元的に指揮管理されていることが望ましい

●「コントロールタワー機能」は「可視化レイヤー」「分析レイヤー」「対応レイヤー」の3つから構成される

●長年解決されていない可視化の実現には思い切ってサプライチェーンの構造レベルの議論をすること

●分析能力の強化は経営視点でWhat-Ifシナリオ分析の軸と計算式の定義をすることが重要

●対応能力の強化は経営陣と現場の溝を埋める仕掛けとして、DOA(Delegation of Authority)の再設計、結果指標に偏っているKPIの再設計が重要

 

 
太田 陽介(写真・左)
アクセンチュア 戦略コンサルティング本部
サプライチェーン&オペレーションズ&サステナビリティ戦略グループ日本統括
マネジング・ディレクター

慶應義塾大学卒業後、2000年アクセンチュア入社。テクノロジー部門を経て2011年より戦略部門に異動。製造業・ハイテクなど複数産業、また国内外でのサプライチェーン企画・設計を多数歴任。サプライチェーン以外にも生産、調達、R&DなどCOOのアジェンダを広くカバーする経験を有し、ビジネスモデル変革からそれに応じた機能設計までを一貫整合して実施するスタイルで定評を得ている。
 
五十川 くりえ(写真・右)
アクセンチュア 戦略コンサルティング本部
マネジャー

国際基督教大学教養学部卒業後、スタートアップ企業、日系コンサルティングファームを経て、2012年にカート・サーモン入社後、2017年経営統合によりアクセンチュア入社。小売・流通・製造業を中心とした幅広い業界を対象に、サプライチェーン戦略設計、Eコマース戦略立案、物流アウトソース戦略、物流自動化、オペレーション効率改善、コスト削減等の経験を有する。