この問題を検証すべく、私たちは2つの実験を行った。その結果は、『サイコロジー・サイエンス』誌に掲載される予定だ。

 1つ目の実験では、アマゾン・メカニカルタークで114人の被験者に、異なるタイプの記憶を検証すると称した、オンライン調査に参加してもらった。こちらが望む感情の状態を引き出すために、被験者に、次のいずれかについて書いてもらうよう無作為に割り当てた。感謝の気持ちを持ったときのこと、幸せで楽しいと感じたときのこと、または典型的な一日の出来事(つまり、どちらでもない「中立」な記憶)についてである。

 被験者には実験の謝礼を支払う前に、運試しゲームに参加できることを伝えた。コイントスで2種類の賞金(少額の賞金と、もっと高額の賞金)の一方がもらえるというゲームだ。

 コイントスは匿名制という建て前で、被験者に対して、コイントスのサイトへ移動する別のブラウザのリンクを送った。賞金を手にするには、オンライン実験に戻ってコイントスの結果を伝えるだけでいい。表が出れば高額の賞金(40セント)を、裏が出れば少額の賞金(10セント)をもらえる。

 被験者には知らされていなかったが、コイントスは1回目に必ず裏が出るように操作されていた。感謝の気持ちが正直さを高めるならば、明らかにこう予測できる。感謝の気持ちを想起した被験者は、裏が出たと報告する傾向が高くなり、受け取る賞金が少なくなるはずだ。

 結果的に被験者の行動は予測通りとなった。(直前の回答作業で)感謝したときのことを思い出した被験者のうち、コイントスで嘘の報告をした人の割合(27%)は、幸せなときと典型的な一日の出来事を思い出した被験者(56%)の半分以下だった。のみならず、正直に行動する確率は、回答作業後の感謝の気持ちの度合い(5段階で評価)に応じて直接的に高まったのである。

 2つ目の実験では、もう少し利害を大きくしたいと考えた。

 今回は大学生156人に依頼し、研究室で前述の手順を用いた実験に各自参加してもらった。ただし、この実験には2つの重要な違いがあった。第1に、コイントスにより、10分の楽しい課題を行うか、45分の面倒な課題を行うかが決まる。第2に、コイントスで出なかったほうの課題は、自動的に次の被験者に割り当てられるものとした。

 これら2つの変更により、被験者の判断には、必要とされる時間と労力が大きく異なる選択肢だけでなく、他の被験者の結果に直接影響を及ぼす選択が含まれることになった。仮想のコイントスで表が出たと偽ることを選べば、面倒な課題に30分以上も費やさずに済むだけでなく、他の人にそれを押しつけることになる。

 全体的に不正の頻度は前回よりも減ったが(対人的影響を考えると予測可能な結果だ)、感謝の気持ちはまったく同様に機能した。中立または幸せな記憶を想起した被験者の17%が不正を働いたのに対し、感謝の気持ちを想起した被験者のうちで不正を働いた者はわずか2%だった。

 ここでも、参加者が抱いた感謝の度合いが、正直さの予測因子となった。感謝の気持ちを持っていない、または非常に低い被験者が正直に行動する確率は50%だったが、深い感謝の念を抱いていた被験者の場合は95%に上昇したのである。

 ここで、必ず認識しておくべき点がある。この実験で正直な行動をした人とそうでない人は、そもそも彼らが「善人」あるいは「悪人」だからではないということだ。

 どちらの実験でも、被験者を3つの感情状態のどれか1つに無作為に割り当てたため、各グループのメンバーの性格特性や信条、社会経済状況は同じような構成になったはずである。つまり、実験の結果は、感謝の気持ちは誰に対しても同じ効果を現すことを示唆している。わずかの間、感謝の念を抱くことで、被験者の道徳的選択は劇的に向上したのだ。

 これは、感謝の念が職場の不正を撲滅する特効薬という意味ではない。従業員が不正を企んだり、雇用主から窃盗を働こうと考えたりするのには、多くの要因が関わっている。

 とはいえ、研究結果が示す通り、会社やチームに感謝の文化――全レベルの社員が、感謝を感じて表現するための時間を割くよう推奨される文化――を浸透させれば、社員の生産性とウェルビーイングだけでなく正直さも高まり、収益に貢献するだろう。


HBR.ORG原文:When Employees Feel Grateful, They’re Less Likely to Be Dishonest, April 09, 2019.

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デイビッド・デステノ(David DeSteno)
ノースイースタン大学の心理学教授。著書にEmotional Success(未訳)がある。