AIの社会実装には、学生と教員の両者が不足している

――第三次AIブームとご指摘の通り、産業界においてはAIによるビッグデータ解析を通じて、業務効率の改善やイノベーションの創出につなげる動きが加速しています。昨今のAIブームをどうご覧になっていますか。

 ブームというのは善し悪しがあって、通常ブームが終わったら逆向きに振れます。一番心配しているのは、ディープラーニングに偏りすぎていること。ディープラーニングには得意なことと、得意じゃないことがあって、何でもすべてディープラーニングでやろうとすると、おそらく失敗します。

 動的な情報処理については、ニューラルネットワークを使わないほうがむしろ効率よくできるテーマもあります。ダイナミカルな情報を処理する数学的なアルゴリズムを開発し、コンピューターに載せることができれば、実は解決します。ですから、ディープラーニング一辺倒ではなくそれ以外の技術をきちんと考えることが、これからのAIにとって大事です。もう一つ、ディープラーニングは脳から学んだと言われますが、我々のような脳科学の研究者から見ると、実は脳とは全然違います。もう少し脳に近いニューラルネットワークを開発することも、AIを真に活用するためには重要だと考えています。

――人間知能とAIの共生について、あるべき姿をどう考えますか。

 とりあえずは、AIが得意なことはAIにやらせて、その情報をうまく使って、人間が最終的な高次処理をするというやり方が主流になるでしょう。今回のファッションデザインも、AIがいろいろパターンを出して、最終的に手を下したのはエマ理永さんです。そういう使い方のほうが実現しやすいですし、安心もできます。たとえば、医療応用などを考えると、AIですべてを自動化するのは安全性の観点で難しく、非現実的です。最後は患者を実際に診ている医師の判断が入ってくることが望ましいと思います。

 いまの科学はどんどん巨大化しています。人間が読み切れない量の論文が出版されていて、脳科学でいうと、10分に1本くらいのペースで論文が発表されています。このことは、脳科学のすべての成果を知っている研究者はもういないということを意味します。脳科学だけでなく、さまざまな学問分野で、人間が処理しきれないほどのデータがあふれるようになると、その処理をAIがやって、重要な情報のみを人間に提示し、それをもとに高次な情報処理を人間が行うという使い方が一般的になっていくのではないでしょうか。そういう使い方であれば健全ですし、安心してAIを活用できます。

――そうしたメリットの一方で、AIが社会に実装されていくためには何が必要ですか。

 最も大きな問題は人材不足で、AIを学ぶ学生と、AIを教える教員の双方が足りていません。そもそも機械学習やニューラルネットワークの授業自体が少なく、理系の学部に進んでも、その分野の研究室がないケースも多い。そこは広げていくべきで、さらに個人的には文系の学生も含めて初歩的なAIの知識を現代のリテラシーとして学ぶべきだと考えています。また、教員については、大学のポジションが減少しているため、人材がどんどん企業に取られてしまっている状況です。AIを教育できる人材をどうやって育てて、確保していくかは、大学そして我が国にとって深刻な問題です。米国のように大学教授が企業でアクティブに活動できる、あるいは逆にAI企業の実務研究者が大学でも積極的に教えるようなシステムに変革していく必要があるかもしれません。

(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)