[具体的事例]日立製作所 増田周平さんのケース

 具体的なプロジェクト事例として、2015年に日立製作所からインドに8週間の留職をした増田周平さん(派遣当時入社4年目)のケースをご紹介しよう。

 日立製作所は、同社が目指す「社会イノベーション」を推進する人材を育成するために、2013年より留職プログラムを導入している。ハードウェア設計者として大企業向けサーバー設計の仕事に従事してきた増田さんは、「リーダーシップの本質をつかみたい。企業活動の原点である社会に価値を届ける原体験をしてみたい」という思いでプログラムへの参加を決意した。

 クロスフィールズは、増田さんの期待と派遣元企業の意向を踏まえ、インドの無電化地域に風力・太陽光等の再生可能エネルギーのソリューションを提供しているソーシャルビジネス企業を留職先に選定した。

 留職者は、現地派遣直後の1週間で、留職先のメンバーと議論して、留職期間中に取り組む内容を決定する。

 増田さんは、電気が通っていない農村部の家庭や商店などを使用対象とした、ソーラーホームライティングシステム(SHS)の改良に取り組むことにした。SHSは、日中はソーラーパネルにつないで充電し、夜間はバッテリーとして照明につないで使える電気機器である。

 増田さんは当初、団体から寄せられる期待の大きさに戸惑い、プレッシャーと不安に苛まれた。しかし、SHS事業の可能性を信じて邁進している団体の代表やメンバーの姿に勇気を奮い起こし、SHS事業に全力でコミットする決意を固めた。

 増田さんは、まず農村に赴いてSHSの利用者にヒアリングを行い、改善策を検討した。更に現地ベンダーとの話し合いを重ね、改良版製品の試作機を完成させた。SHS事業のバリューチェーンの上流から下流までにわたるプロジェクトをやり遂げたのだ。

 その成果については、インドの著名な社会起業家である留職先の代表から、「想像をはるかに超えるもの」と高く評価された。

 留職でバリューチェーン全体に関わって仕事をする原体験をした増田さんは、日立製作所でのそれまでの自分の仕事を振り返って、ビジネスが持つバリューチェーンを意識せずに、開発の中だけで物事を考えていた自分に気が付いた。増田さんにとって留職プログラムは、日立製作所という大きなフィールドで、社会に価値を生み出すバリューチェーンを意識しながら仕事をする技術者になりたい、という夢・志を育む原体験となった 。

インドで留職先のメンバーと打ち合わせを重ねる増田さん。

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 留職プログラム卒業生の活躍のあり方はそれぞれである。プログラムの原体験をもとに自社で新製品を生み出したケースや、自社と留職先をつないで共にプロジェクトを立ち上げ本業を通じて現地の課題解決に挑み続けるケースなど、様々な形でプログラムの原体験を本業につなげて活躍している実例が生まれている 。

 次回は、なぜ今このプログラムが企業から注目を集めているかを示すとともに、プログラムを運営する中で見えてきたリーダー育成の本質に迫っていく。


*留職プログラム卒業生の活躍や学びについては、以下の動画をご参照頂きたい。
https://www.youtube.com/watch?v=4mXAfnYfOIs
増田さんのプログラムの詳細は、以下の記事をご参照頂きたい。
http://www.foresight.ext.hitachi.co.jp/_ct/16935229

 

中山 慎太郎
NPO法人 クロスフィールズ 副代表。2006年一橋大学法学部卒業。国際協力銀行、国際協力機構、三菱商事株式会社にて特に中南米のインフラ開発に従事後、2014年にクロスフィールズ参画。留職プログラムのプロジェクトマネージャ―、留職事業の事業統括を経て、経営管理部門と法人営業部門の事業統括を務める。2018年6月に副代表に就任。

小沼 大地
NPO法人 クロスフィールズ 共同創業者・代表理事。一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。青年海外協力隊として中東シリアで活動した後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて勤務。2011年5月、NPO法人クロスフィールズを創業。2011年に世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shaperに選出、2016年に『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』の「未来をつくるU-40経営者20人」に選出される。国際協力NGOセンター(JANIC)の理事、新公益連盟の理事も務める。著書に『働く意義の見つけ方―仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)。


NPO法人クロスフィールズ
2011年5月創業。「すべての人が「働くこと」を通じて、想い・情熱を実現することのできる世界」「企業・行政・NPOがパートナーとなり、次々と社会の課題を解決している世界」の実現をビジョンに掲げ、留職プログラムを旗艦事業として、国内外の社会課題の現場と企業の間に、枠を超えた橋を架ける様々なプログラムを展開、そこで生まれる挑戦への伴走を続けている。