国内、海外に縛られずに
エコシステムの拡大を

 海外企業への売却を促すと、「技術の国外流出を促すのか」という批判を受けそうである。だが、例えば「Googleに買収された」「Appleに買収された」というのは、起業家やスタートアップのメンバーにとって不幸なのか。買収企業がたとえばトヨタやソニーだからよくて、アリババやテンセントやサムソンならなぜダメなのであろうか。

 買収先企業の性質による違いは当然あるが、国や企業がどこであれ本質的には同じで、起業家が売却によって多くの資金を獲得し、その資金を元手に新しいことを始めるのである。特に海外に出ている日本人は、日本への「恩返し」をしたいと手にした資金を日本のために活用したいと考える起業家も少なくない。

 むしろ、国内で売却可能性が低いのだから、海外企業に買収してもらい、よりエコシステムを円滑にしていくことが大切であろう。

 前述したように、インド、中国、韓国、欧州など、シリコンバレーで活躍しているさまざまな国籍の人々は、成功した後、その資金と知見を携えて出身国に帰り、その国のスタートアップエコシステムの発展に尽力する人々が多い。

 移民としてシリコンバレーに残る人も、故郷の国を離れた多くの人々がそうであるように、出身国のために何かをしたいという意識が強く、新たにシリコンバレーに来たその国の出身者を支援するだけでなく、出身国のエコシステム自体の発展をサポートしているものだ。

 日本企業の復活そして日本のエコシステムの発展には、国内、海外に縛られずに、グローバルのエコシステムの資金や人脈、開発ノウハウなどを最大限活用する意識を持つことが欠かせない。それがエコシステム全体の拡大につながるだろう。

 現在、日本のベンチャーキャピタルの投資額は非常に増えてきている。スタートアップへの投資額全体が増える事は大変素晴らしく、ここ最近は数億円から数十億円の資金調達をするスタートアップも増えてきており、ディープテックを主に投資してきたベンチャーキャピタリストとして、非常に喜ばしいことだと感じている。

 これを一過性に終わらせないためにも、ディープテック・スタートアップのエコシステムそのものを盛り上げることが、ディープテックによるイノベーションを「取り戻す」ための一つの処方箋だと信じている。そして、日本企業が、日本全体が復活することにつながるはずである。

 

中島徹(Tetsu Nakajima)
東芝に入社後、研究開発センターにて無線通信の研究・無線LANの国際規格の標準化・半導体チップ開発業務に従事し、数十件の特許を取得。2009年から産業革新機構に参画し、ベンチャーキャピタリストとして、WHILLやイノフィス等、日本と米国シリコンバレーでロボティクス、IT、ソフトウエア系の出資を手掛ける。エンジニア経験を生かして投資先の業績改善にハンズオンでコミットし、中村超硬の上場や複数のスタートアップの売却などを実現。2016年にMistletoeに参画、2017年11月よりChief Investment Officerとして12ヵ国での投資活動の全般を統括。日本や米国シリコンバレー、欧州の有力な投資家・起業家とのネットワークを有する。北海道大学工学部、同大学院工学研究科修士、グロービス経営大学院修士。