日本で盛り上がり始めたディープテック向けの投資だが、より大きな果実を得るためには、グローバルのエコシステムを活用するほうがよい。エコシステムの仕組みに加えて、前回に引き続き、かつてディープテック大国だった日本企業が輝きを取り戻すために必要なポイントをお伝えする。連載最終回。

ディープテック復活のために
グローバルのエコシステムを活用せよ

 前回の連載では、日本企業がディープテックを「取り戻す」ための3つのアプローチのうち「意思決定を外部に分離」し「失敗をノウハウとして蓄積」するという2つを紹介した。

「意思決定を外部に分離」は、当然ながら新規事業の成功確率を上げることだけでなく、大企業の中でチャレンジする人材を多く輩出することを促す。例えば、企業幹部候補生がスタートアップスタジオ(連載第4回参照)のような外部組織に出向して実際に起業するとしよう。

 そこでは、「リソースが無い中で事業を大きくしていく」という企業内部では経験できない、多くのドラスティックなビジネス経験を積めるだろう。仮に失敗したとしても、「チャレンジした経験をノウハウとして蓄積」できれば、ベンチャー企業との連携や、買収後に社内に事業として取り込んで行く過程で、非常に役立つ人材になるだろう。

 大企業の社長人事は、米国などで子会社の社長を経験した人材を登用する事例が多い。だが、もっと小さな組織で、かつリソースのない中での経営のほうがかなり得難い経験となるだろう。

 そのうえで、3つ目のアプローチとして提案したいのが、グローバルのスタートアップエコシステムの活用である。すなわち、海外からの出資を募り、海外企業への企業売却を積極的に進めていくことだ。

 海外からの出資を受ける

 少数ではあるものの、シリコンバレーに渡り米国のベンチャーキャピタルからの資金調達に挑戦している日本人の起業家がいる。筆者もこれまで、そのような方々を何人もサポートしてきたが、残念ながら米国のベンチャーキャピタリストはとても厳しく、出資を受けられるレベルの起業家がかなり少ない。

 とはいえ、シリコンバレーの環境と資金、またシリコンバレーのみならず、欧州やイスラエル、アジア(中国・韓国なども含む)の投資家から資金を募っていくことは、非常に重要である。

 たとえば、シリコンバレーは、移民が多いエリアでもあるので、エンジニアや起業家、ベンチャーキャピタルには、インド、中国、韓国、欧州など、さまざまな国籍の人がいる。当然ながら、そうした投資家から出資を受けるのは極めて厳しいが、その厳しい試練に打ち勝てば、彼らのグローバルな支援を受けることができて、大きく成長するだろう。出資者である以上、スタートアップの価値を最大化する努力をするのが株主であるし、そのための支援を惜しまないのがシリコンバレー流である。

 スタートアップは自分たちの技術を契約や特許などできちんと守りながら、十分な資金とグローバルな投資家からのビジネス上のサポートを受けた方が成功確率が上がるということだ。

 たとえば、第2回の記事で書いたオランダのスタートアップのように、研究開発はオランダのアイントホーフェンにあって、ビジネスディベロップメントと本社機能は米国のシリコンバレーにあるという会社が、米国のベンチャーキャピタルから出資を受けている。

 筆者が現在、投資検討しているスタートアップの中には、同じように欧州発ながら、起業家と研究開発の拠点は欧州のまま、シリコンバレーに本社を移す企業がある。彼らは、シリコンバレー在住のシリアルアントレプレナー(複数社にわたって起業と売却・上場を果たした起業家)を新たなCEOとして迎え入れるなど、単に自国内の研究、開発に留まるのではなく、米国の進んだスタートアップエコシステムの環境をよい形で利用している。

 海外企業への買収を促す

 日本企業の問題点の1つとして、海外のスタートアップへの関心は高いが日本のスタートアップへの興味は薄いということだ。とりわけ、ディープテックのような企業はさらに買収される可能性が低い。

 筆者もかつて、出資したディープテック・スタートアップの売却に奔走したことがある。だが、自社開発、自社研究のこだわりの強い日本企業において、スタートアップの提携や買収などが容易でないことを肌身で感じた。自社製にこだわり他社を受け入れない「Not Invested Here」という精神が根強く残っているのだ。それなら、海外企業に目を向けることが重要ではないか。

 ここで、少しスタートアップエコシステムという仕組みについて述べておこう。たとえば、先端技術を持ったスタートアップは、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から出資を受ける。そしてプロダクトやビジネスモデルを磨き、事業が成長すれば、上場はもちろんのこと、大手企業から買収候補先になるという売却(エグジット)機会が訪れる。

 もし買収されれば、ベンチャーキャピタルや投資家のみならず、起業家やその創業メンバーたちに多額の資金が渡ることになる。シリコンバレーにおいて上場ないしエグジットを果たした起業家は、通常2年程度のキーマンクローズ期間を経て、エグジット資金を元手に、また新たにスタートアップを始めたり、エンジェル投資家になったりする。その際、大手企業も、買収したスタートアップの事業を発展させることで、さらに次の買収先を含む事業拡大を行える。

 この時、ベンチャーキャピタル自体も投資家から資金を預かって運用しているので、売却益を資金運用の成果として投資家に還元することでベンチャーキャピタルとしての実績を出す。その実績を基に、新たに投資家の資金を預かり、さらに次なるスタートアップに投資することができる。こうした循環型の仕組みがあるため、エコシステムと呼ばれる。

 この仕組みは、スタートアップとベンチャーキャピタル双方のお金の流れが上手く回ることで成立するので、スタートアップの上場や売却がなければお金の流れは止まってしまう。このサイクルを止めないために一番大切なのは、企業売却によるエグジットが盛んであることだ。

 シリコンバレーが発展しているのは、GoogleやAppleなどを筆頭とした企業によるスタートアップの買収が盛んなことが大きな要因である。一方、国内におけるスタートアップの企業売却といえば、Webサービスやアプリ、アドテク、ゲーム業界などが中心であり、ディープテックにはその波が及んでいない。そのため、海外へ目を向けることが重要だ。

 筆者は2019年3月14日、15日に、フランスのパリで開催されたディープテックスタートアップの祭典「Hello Tomorrow Global Summit」に参加した。ここのGlobal Summitでは、世界119カ国、約4500社の応募の中から、ファイナリストとして勝ち上がったディープテック・スタートアップによるピッチセッションが開かれた。

 日本からは、昨年12月に開催したJapan Summitの優勝者であるAster社を始めとした多数のスタートアップが参加、そしてスポンサーとしてもJ-Power(電源開発)をはじめとした多くの大企業が参加した。

 ディープテックを日本企業が「取り戻す」ためには、Hello Tomorrowのような海外のディープテックブームに乗りながら、スタートアップなら海外投資家の出資、売却を目指せばよいだろう。