「プル」の要因に関して、ウェインと私は人事部門などのリーダーに対し、カギとなる意思決定者やインフルエンサーたちに、人材に関する評価指標や分析情報をどのように届ければよいか、その条件を考えるようアドバイスしている。

・意思決定者やインフルエンサーは、正しいタイミングと文脈で分析情報を受け取っているか。
・意思決定者やインフルエンサーは、分析に関心を持ち、分析には価値があり、自分はそのような情報を活用できると考えているか。
・意思決定者やインフルエンサーは、分析結果が信頼でき、「現実世界」を反映すると考えているか。
・意思決定者やインフルエンサーは、分析のもたらす影響は大きく、それに時間と関心を費やすことは正当であると考えているか。
・意思決定者やインフルエンサーは、分析が自分の意思決定や行動を向上させる上で具体的な意味を持つことを理解しているか。

 上記5点のプル要因を改善するには、人事部門のリーダーが意思決定者をサポートし、コンプライアンスにフォーカスした分析が、人事部門の効率やサービスの分析とは異なること、あるいは人材がビジネスに及ぼす影響の分析とも、人事部門以外のリーダーによる意思決定と行動の質にフォーカスした分析とも異なることを、理解してもらう必要がある。

 これらはそれぞれ、分析データを利用するユーザーにとって、まったく違う意味を持つ。しかし、人事に関するシステムや考課表、報告書の多くは、その違いを区別しないまま不可解な指標を示して、ユーザーを混乱させているケースも少なくない。よりよい「プッシュ」を実現するには、ユーザーが受け取った情報をどう解釈するかという「プル」の要因について、人事リーダーとスタッフがこれまで以上に注意を向けることが必要だ。

 たとえば、従業員の定着率とエンゲージメント率を部門間で比較して報告すれば、それらの部門の関心を集めるに違いない。定着率とエンゲージメント率を低、中、高(赤、黄、緑で色分けする場合も多い)の3段階で評価し、「赤い部門」に改善を促すという方法だ。しかし、従業員の定着率とエンゲージメント率がすべての部門に一様に影響を及ぼすわけではなく、「緑の部門」を拡大する決定を下すほうが、インパクトが大きくなる場合もある。

 ユーザーが人材分析の結果を踏まえて行動できないのは、分析結果を信用していないからなのか。それとも、それが持つ意味を重視していないからなのか。分析結果を踏まえて、どのように行動すればよいのかわからないからなのか。あるいは、それら3つの理由の組み合わせのいずれかであるのか。

 その理由に関する情報は極めて少ない。そうした問題に対する研究はほとんど行われておらず、その答えを見つけるために必要なユーザーの「フォーカスグループ」を実施している組織もほとんどない。

 人材に関する意思決定の質の重要性について、企業リーダーを教育する制度が人事システムの中に組み込まれているかに注目すると、現状が把握しやすいだろう。

 前述のローラー・ブードロー調査でそのような教育制度があるかどうかを問いかけたところ、人事リーダーたちは自社の人事と分析システムの成果の中でも、この点は「最低(5段階評価で約2.5)」と評価しているという結果が一貫して示された。一方、この項目の評価が高い組織では、人事部門が戦略上重要な役割を果たしており、人事部門の機能的な効果が大きく、組織のパフォーマンスも高いことが判明した。人材に関する意思決定の質の重要性をリーダーたちが理解することが、最も効果的な改善機会の一つであるという事実は、我々が過去10年間にわたって実施してきたすべての調査で明らかになっている。

 人材に関するデータと評価指標、分析をさらに効果的に活用するためには、これまで以上に「ユーザー重視」の視点が必要である。人事部門は分析のメッセージを効果的にプッシュするデータ特性に加え、中心的なユーザーが分析データを要求・理解・活用するための「プル」の要因にもっと関心を持たなければならない。

 ほぼすべてのウェブサイトやアプリケーション、オンライン商品が、ユーザーの関心や行動に関するデータを反映して常に微調整を繰り返しているように、人材に関する指標・分析も、ユーザー体験そのものに分析ツールを応用して改善されるべきである。それができなければ、世界中のあらゆる人材データを活用して適材を確保し、会社を成長させることは不可能だろう。


HBR.ORG原文:HR Must Make People Analytics More User-Friendly, June 16, 2017.

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ジョン・ブードロー(John Boudreau)
南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネス教授。経営学を担当。同大学のセンター・フォー・エフェクティブ・オーガニゼーションズの研究ディレクターを兼務する。優秀な人材と持続可能な成功の架け橋に関するエキスパートであり、ラビン・ジェスササンとの共著による最新刊Reinventing Jobsをはじめとする書籍や記事も多数。ツイッター@JohnWBoudreauでも発信している。