産学のダイナミックな人事交流がもっとあっていい

――昨今のAIブームをどうご覧になっていますか。

 私は、これからのAIは、囲碁や将棋ではなく、パターンベースの画像や制御信号、センサーデータから学習し、予測や推論、意思決定をするようなメカニズムが主流になる、そうしたアルゴリズムが必要だ、と訴えてきたのですが、先述の通り、その考えを最初に評価したのは海外で、国内ではあまり相手にされませんでした。ところが、米国企業がニューラルネットワーク、ディープラーニングと言い始めると、みんなわっと飛びつくようになったのは非常に複雑な心境です。

 実は、ディープラーニングの基になった原理は日本人が開発しました。NHK技術研究所から大阪大学に移って研究していた福島邦彦教授の「ネオコグニトロン」です。私も学生時代に福島教授の講演を聞いて、ずいぶんユニークな研究をやっている方がいるなと思ったものです。量子コンピューターも3Dプリンターも、黎明期に日本人が大きく貢献していますが、大きく発展したのは海外でした。当初、日本人には見向きもされなかったものが、米国をはじめとする欧米から出てきたとたんに注目を集めるのはもったいない。国も企業ももう少し、足元のシーズに注目していただきたい。

 大学と産業界の関係については、もっとダイナミックな人事交流があってもいいのではないかと思います。たとえば、スタンフォード大学とグーグルなんて、頻繁に人材が行き来していますし、カーネギーメロン大学やMITなどもそうです。企業のニーズを現場でしっかり感じ取った人が研究室に戻って、学生たちと一緒に研究に打ち込み、そこからまた企業に戻るようなことがあってもいい。

――AI活用は国を挙げた優先課題となっていますが、社会実装に向けては何が必要ですか。

 いまのAIは、例えるならF1マシンのような一点ものに近くて、ものすごい費用をかけて、特定の目的においてはものすごい性能が出る。ただ、それを各家庭が持てるか、仕事に使えるかというと、そうではありません。車で言うなら、大衆車のようにだれもが持てて、使えるようにならないと、身近で便利な存在にはならないでしょう。

 繰り返しになりますが、将来的には個人一人ひとりがAIを持つような時代になると私は考えています。いつでも、どこでも持って行って、ユーザーの生活や仕事のサポートしてくれるようになる。そのためには、教師なしで学習できるアルゴリズムや、コンパクトかつ省電力で動くような仕組みが必要になるでしょう。ソフトウエアは製品と違って、いいものが1個できると、コピーすることができます。AIを活用するインフラ、ハードウエアはかなり整備されつつありますから、あとはみんなが試してみようと思うようなソフトウエアができると、一気に広まる可能性はあります。

――SOINNの今後の展望について伺います。

 世界中で日常的に使われ、だれもが知るメイド・イン・ジャパンのソフトウエア製品は、残念ながら非常に少ないと言わざるを得ません。我々はそこに挑戦していきたい。もう1つは、日本のIT企業として、若い優秀なソフトウエア・エンジニアがじっくり高度な技術開発に取り組める環境を提供したいと考えています。

(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)