企業も個人も自分専用のAIを持つ時代が来る

――応用事例には、どのようなものがありますか。

 ビルエネルギーのマネジメントシステムや、ドローンの自動操縦システムなどがあります。それから、現在つくっているのがスマホで育てる個人向けAISOINN for Personal Use(SOINN P.U)です。2019年2月に発表しましたが、ユーザーの使い方を学習し、情報を基に成長するもので、アプリ事業者は機械学習の知識がなくても、簡単にユーザーごとのオリジナルSOINN P.Uを活用したサービスを作成することができます。

 SOINNは計算が軽くて自律的に学習しますから、スマホのなかに自分専用のモジュールをダウンロードすれば、そのモジュールがスマホにある個人データやGPS情報、生体情報などを取得して、自ら学習し、自分のことをよく知る“分身”のようなものが育つ仕組みです。

 私は、だれもが自分専用のAIを持つ時代が来ると考えています。将来は企業や政府機関、病院なども、AIを公開するようになります。我々のリアルな世界とは別に、多様なAIが共存して連携する、AIの社会がネットのなかに存在するようになるのです。

 ネットのなかには、すでに蓄積された情報が膨大にあります。それをだれかが分類・整理し、個人や企業に提供することで、多様なビジネスも生まれています。しかし、その整理された情報へのアクセス行動を起こすのは私たち自身です。せっかくネットに整理された情報があっても、その存在を知らなかったり、アクセスの方法がわからなければ、恩恵を受けることができません。いわゆる「デジタル・デバイド」の問題です。情報(データ)の恩恵を受けられる人と、受けられない人とで、実生活にも大きな格差が生まれてしまうのです。また最近では、特定の企業や国が膨大な情報を独占することによる弊害も指摘されています。

 私たちは、そこを大きく変えたいのです。たとえば、自分だけの、自分のことをよく知るAIがネットを飛び回り、他者や企業、政府機関などの多様なAIと情報交換することで、指示を出さなくても、いろんな「嬉しい」情報を持ってきてくれる。また身の回りの機器や装置は、いちいちマニュアルを読んで操作方法を覚えなくても、自分のAIが、自分に代わってよい感じに動かしてくれる、そんな世のなかにしたいと思っています。

――予報や防災、医療、マーケティングなどの領域で導入実績も多いそうですが、ユーザーの反響はいかがですか。

 SOINNがお客様に喜んでいただいていることの一つに、自社でお持ちの独自のデータやノウハウを、必ずしも社外に出していただく必要がないことがあります。AIを開発する我々にも、データを見せていただく必要がない可能性もあります。その場合は、お客様にダミーのデータを合成していただき、これを読み込んで成長するようにAIモジュールを設定して納めます。あとは、お客様の手元でAIモジュールにデータを投入し、育てていただきます。最近「育てたAIはだれのものか」という議論がありますが、SOINNでは、育てていただいたAIはそのままお客様の所有物としています。

 またSOINNは、少量のデータから学習を始めることが可能です。通常ディープラーニングの場合、画像を学習する際は数千~数万枚以上のデータが必要ですが、SOINNでは数百程度の学習データで、実ビジネスで活用いただいているAIモジュールがあります。こうした点も評価いただいています。