●マインドフルになる

 平穏な心を培いましょう。人間である私たちは、分析して未来を計画する素晴らしい知性を持っています。自分が理解したことを他者に伝えられる言葉も持っています。怒りや執着といった破壊的な感情は、知性を働かせる力を鈍らせてしまうので、これに対処しなければなりません。

 恐れや不安は、容易に怒りと暴力へと変わります。恐れの反対は信頼であり、信頼は思いやりへとつながり、私たちの自信を高めます。思いやりとは他者の幸福を考えることであり、恐れを減らします。友を引きつけるものは金と権力ではなく、思いやりなのです。

 怒りや執着に支配されると、状況を包括的、現実的に把握する力が制限されてしまいます。逆に、思いやりを持っていれば心は静まり、理性の行使を効果的かつ現実的に、決意を持って行うことができます。

 ●無私になる

 人は生まれながらに利己的です。なぜなら、生き残るためにはそうならざるをえないからです。しかし私たちに必要なのは、他者の利益を考慮した、寛容かつ協力的な賢い利己心です。協力は友情から、友情は信頼から、そして信頼は心の優しさから生じます。他者を真摯に気遣う気持ちがあれば、欺いたり、いじめたり、搾取したりする気にはなりません。正直で、誠実で、率直な行動が取れるようになります。

 ●思いやりを持つ

 幸せな人生をもたらす究極の源泉は、思いやりです。動物でさえ一種の思いやりを示します。人間の場合は思いやりと知性を組み合わせることができます。理性を働かせれば、全人類70億人に思いやりを広げることができるのです。

 破壊的な感情は無知と関係していますが、思いやりは知性と関連する建設的な感情です。したがって、思いやりは教えたり、学んだりできるものです。

 幸福な人生の源は、自分自身の中にあります。世界のさまざまな地域で問題を起こしている人々は、きわめて立派な教育を受けていることが多いものです。つまり、必要なのは教育だけではなく、内なる価値観に目を向けることなのです。

 暴力と非暴力の違いは、ある行動の性質というよりは、その行動の背景にある動機によって決まります。怒りと欲に駆られた行動は暴力的になりがちですが、他者への思いやりと配慮から生じた行動は、概して平和的なものです。

 祈りだけで世界平和を実現することはできません。平和を乱す暴力と腐敗をなくすための、措置を講じなければなりません。行動を起こさなければ変化は望めないのです。

 平和とは、危険がなく心乱されないことでもあります。それは、私たちの心のあり方と、穏やかな心を持てるかどうかと関係しています。穏やかな心は究極的には、自分自身の内部の問題であることを認識することが、きわめて重要です。

 穏やかな心を抱くためには、温かい心を育み、知性を働かせなければなりません。生き残るために必要なものは、温かい心、思いやり、そして愛だということに、人は往々にして気づいていません。

 仏教では、思いやりのあるリーダーシップについて3つのスタイルが説明されています。

「先駆者」は、先頭に立って引っ張り、リスクを背負い、みずから範を示すリーダーです。「渡し守」は、率いる人々に寄り添いながら、船の浮き沈みを乗り越えていくリーダーを指します。「羊飼い」は、自分自身よりも集団の1人ひとりの安全を考えるリーダーです。

 スタイルとやり方はそれぞれですが、三者すべてに共通するのは、率いる人々の幸福をさまざまな面から考えているということです。


HBR.ORG原文:The Dalai Lama on Why Leaders Should Be Mindful, Selfless, and Compassionate, February 20, 2019.

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ダライ・ラマ(Dalai Lama)
チベットの人々の精神的指導者。1989年にノーベル平和賞を、2007年に米国議会名誉黄金勲章を受賞。

ラスムス・フーガード(Rasmus Hougaard)
グローバルなリーダーシップと組織の発展を支援する企業、ポテンシャル・プロジェクトの創設者兼マネージングディレクター。クライアントには、マイクロソフト、アクセンチュア、シスコほか、数百の組織がある。The Mind of the Leader(未訳)共著者。リーダーのマインドフルネス、無私の心、思いやりを育むためのアプリを開発。