私たちは、複数の実験を通して検証を試みた。ある実験では、オンラインで288人の参加者にカフェでの監督者の役をしてもらった。そのカフェには、従業員の提案に賞を与える制度があり、監督者はカフェの効率性向上のアイデアをマネジャーに伝えてある、という設定である。

 マネジャーは一部の参加者に対しては怒りをぶつけ、他の監督者たちの前でアイデアをけなした。そして残りの参加者のアイデアは、そのまま経営上層部に伝えた。また私たちは、参加者がマネジャーに対して脱同一化する度合いも操作した。自分がマネジャーとはまったく違うことをどれほど誇りに思うか、マネジャーに対しどれほど心理的距離をとるか、などである。

 その後、参加者に自分のリーダーシップ・スタイルを示す機会を提供した。シナリオでは、彼らの部下の1人がカフェを改善する提案をメールで送ってくる。その部下はフェイスブックでのキャンペーン用の広告をつくったのだが、あちこちにタイプミスや文法的誤りがある。監督役の参加者は、従業員の意欲を評価するだろうか、それとも完成度の低さをこき下ろすだろうか。

 参加者の反応をコード化したところ、マネジャーに対して脱同一化し、マネジャーによる不当な扱いを経験した参加者は、そうでない参加者に比べ、より倫理的なリーダーシップ行動をとることがわかった。つまり、仮想のマネジャーに虐げられて、自分はこの人とは違うという考えを持った参加者は、まったくマネジャーに虐待されなかった参加者よりも倫理性が高まったのである。

 この研究結果を現実の労働環境に適用できるかどうかを見極めるため、私たちは、インドのさまざまな組織と業界の従業員500人と、そのリーダーたちを調査した。全体の平均では、マネジャーが虐待的な行動をとると、監督者のマネジャーに対する脱同一化は12%増加した。

 しかし、脱同一化の傾向が最も著しかったのは、道徳と誠実さを拠り所とする監督者だった。研究者の用語で言えば、強固な道徳的アイデンティティの持ち主である。彼らの場合、マネジャーの虐待的な行動によって、脱同一化は14%増加し、グループ全体よりもやや高めだった。重要なのは、監督者が脱同一化すると、その心理的距離によって倫理的行動が8%増加し、チームメンバーに対する虐待的な行動が6%減少したことである。

 対照的に、それほど道徳的アイデンティティを拠り所としない監督者の場合、マネジャーによる虐待は有意な脱同一化につながらなかった。

 以上の調査結果は、次の理論を裏づけている。虐待を経験した監督者は、虐待的なマネジャーに対して脱同一化することにより、自分の部下にはより倫理的で非虐待的な行動をとる。この傾向は、強固な道徳的アイデンティティを持つ監督者ほど顕著である。

 この研究から、従業員とリーダーは何を学ぶべきだろうか。もちろん、倫理的な行動を喚起する手段として虐待的な仕打ちをすることなどお勧めはしないが、研究により、虐待的な管理という暗雲の中に差す一筋の希望の光が見出された。脱同一化は、上司からの虐待に対するワクチンとして作用し、より倫理的で、非虐待的な行動につながる可能性があるのだ。

 このことは、組織における虐待の連鎖が不可避ではないことを示唆している。発達心理学の研究で、虐待的な子育てが必ずしも次世代の親を加害者にしないことが示されているのと、まさに同じである。

 だが、組織が悪い行動の模倣を回避するには、強固な道徳的アイデンティティを持つ監督者を選ぶか、現在のマネジャーの道徳的アイデンティティの強化に取り組むことが必要である。リーダーシップ開発プログラムを18ヵ月間にわたって観察したエスノグラフィー調査によると、虐待を引き継ぐ監督者の「アイデンティティの打ち消し(undoing)」をすることが、1つの方法である。

 また他の研究は、組織の規範や専門家としての規範に留意させておくことで、倫理的な行動を促進できるとしている。たとえば、オフィスの随所に倫理規定や行動規範を表示しておくなどである。

 虐待的な行動を阻止するために組織がどんな手段を取るにせよ、マネジャーからの虐待を経験しているリーダーは、次のことを知っておくべきである。

 あなたはその上司とは違う人間であり、上司のリーダーシップのスタイルによってあなたのやり方が規定される必要はない。少なくともその経験を、間違ったリーダーシップとはどんなものかを学習する機会と見なすことはできる。

 そうした姿勢があれば、悪い上司を持ったことで、素晴らしい上司になることができるだろう。


HBR.org原文:Does Having a Bad Boss Make You More Likely to Be One Yourself, January 23, 2019. 

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