ステークホルダーの期待と照らし合わせる

 トランジションラボでは、CxOとしてどのような期待に対し、どのように成果を残していくかについて、「時間の使い方」(Time)、「チームのつくり方」(Talent)、「関係性の築き方」(Relationship)のフレームワークを用いて、丸一日かけた議論を通じて整理し、360日(あるいは180日)のアクションプランに落としていく。

日置圭介(ひおき・けいすけ)
デロイト トーマツ コンサルティング
執行役員 CEO/CFO/CSOトランジションラボファシリテーター

日置 トランジションラボでは、あえてフレームワークをシンプルにしています。ラボを受講されるエグゼクティブの方々は考え過ぎるくらいにいろいろなことを考えていて、その結果、課題の整理がし切れずにいたり、わかりやすいロードマップや具体的なアクションプランに落とし込めていなかったりすることがあるからです。

 また、ラボのファシリテーターとして私が留意しているのは、深く思考してもらえるような質問を、時には会社に対する失礼な指摘や他社のケースをインプットしながら問いかけ、徹底して話を聞き、CxOご自身で本当にやりたいことを導き出し、真の課題感を浮き彫りにしていただけるような場づくりです。

 コンサルタントという職業人は、クライアントの話を聞くとすぐにその解法を提案したがる面があるのですが、「トランジションラボでは、それは禁止」と他のコンサルタントに口を酸っぱくして言っています(笑)。

西山 私が参加したセッションでは、私一人とコンサルタント7人で議論しました。

日置 ラボでは、私のようなファシリテーターに加え、クライアント担当チームの責任者やSME(サブジェクト・マター・エキスパート)、運営をサポートするラボマネージャーなど数人のチームでCxOを囲みます。

西山 ほぼ初対面の人ばかりでしたし、1対7で質問攻めに遭いましたから最初は緊張しましたが、シンプルなフレームワークで深く議論できたことはよかったですね。日立から参加していたのは私一人なので、お互い率直に話をできました。

 私はラボに参加する前にCFOとしてのミッションやアクションプランについてペーパーをまとめて、それを基に議論したので話題を絞れましたし、コンサルタントの人たちからいろいろ意見を聞くこともできました。

 結果として、CFOとしてのミッションやアクションプランを大きく変えたわけではありませんが、議論を通じてあらためて自分の考えを体系化できたと感じています。

 私はCFOとして年間20回くらい各BUの本部や主力工場を訪ねて、財務・経理部門の社員たちとタウンホールミーティングを行っているのですが、果たすべき財務機能を説明する際などにはトランジションラボでの議論が大いに役に立っています。

 たとえば、CFOおよびCFO組織には「攻め」としてのストラテジスト(戦略立案への参画)とカタリスト(戦略実行の推進)、「守り」としてのオペレーター(取引処理の実行)とスチュワード(統制環境の整備)という4つの役割(4 Faces of CFO)があるというデロイトの定義は、示唆に富むものでした。

 この定義に照らした時、トランジションラボで議論した当時の私自身や日立の財務部門は「攻め」より「守り」の比重が大きく、ストラテジスト・カタリストとしての役割をもっと積極的に果たす必要があると痛感しました。

 そのことをタウンホールミーティングで財務・経理部門の社員たちに繰り返し語りかけ、それを実現するためのプランについてみんなで考えています。

 トランジションラボを開催する前には、参加するCxOの上長となる社長や関係役員、配下のメンバーなどステークホルダー数人に、CxOとしての期待、その実現に向けて越えるべき課題や懸念、あるいは、組織に残してほしいこと、起こしてほしい変化などを尋ねる。CxO本人とステークホルダーの考えや期待を照らし合わせ、アクションプランの実効性をより確かなものとするためだ。

日置 我々がステークホルダーに事前インタビューを行うと、(ラボに参加するCxOに対して)厳しい注文を付ける方もいらっしゃいますが、セッション中、あるいは、セッション後に取りまとめるレポートでそれを伝えると、むしろ「ありがたい意見だ」といわれることが多いですね。そうした厳しい意見の中にこそ新たな気づきがあったり、「よし、思い切ってやってやろう」という後押しになると感じたりするようです。

西山 普段から会っている人でも、面と向かって「これを期待している」とか「この点が足りないのではないか」とか、ずばりと指摘されることはあまりありませんから、明示的にコメントをもらったのは私もよかったと思っています。

 コメントによって自分の軸がぶれるのはよくありませんが、周りの期待を知っておくのは大事です。それによって、やるべきタスクがより明確になると思います。