とはいえ、もし大学が重要なソフトスキルの教育にもっと時間を割けば、学位の価値を大きく向上させられるかもしれない。

 候補者が求人担当者や雇用主に好印象を与えるには、一定程度の対人スキルを示せなければならないだろう。大学と雇用主とで、出願者や応募者に求めるものが最も異なるのはおそらくこの点だ。

 雇用主は候補者に、高度のEQ(こころの知能指数)、再起力、共感力、誠実さを求めるが、大学の入学ではこれらはほとんど重視されず、選考対象にもならない。人工知能(AI)や破壊的テクノロジーの影響が増すにつれ、機械にはできない仕事ができる候補者の価値は高まっている。つまり、機械には真似が難しいソフトスキルの重要性が高まっているのである。

 2000の雇用主を対象としたマンパワーグループによる最近の調査では、50%超の企業が、問題解決、協調、顧客サービス、コミュニケーションを最も価値あるスキルに挙げた。同様に、ジョシュ・バーシンの最近の報告によれば、今日の雇用主は候補者の選別基準として、需要の高い技術的スキル(プログラミング言語のPython、アナリティクス、クラウド・コンピューティングなど)と同程度に、順応性、社風への適応性、成長可能性を評価するという。

 また、グーグルアマゾンマイクロソフトといった雇用主は、学習可能性、つまり好奇心やハングリー精神があることを、キャリア上の潜在能力を示す大きな指標として重視している。これは、従業員教育への注目が高まっている結果だろう。ある報告によれば、米国の企業は2017年に900億ドルを従業員教育に費やしている。好奇心の高い人を雇用すれば、そうしたプログラムの投資対効果を最大化できる可能性が高いのである。

 大学にとっては、リーダー職に昇進したマネジャーの多くが直面する学習不足を埋める役割を担うことが、大学の重要性を回復させる大きな機会になる。今日では、正式なマネジメント教育を十分に受けないままリーダー職に昇格する人が少なくない。個人として最も高い業績を上げた人がマネジメントに登用されるものの、その人はチームを率いるために必要なスキルを身に付けていない、というケースがよく見られる。リーダーシップ教育に投資する大学が増えれば、企業にはリーダーとしての潜在能力を持つ候補者がより多く集まるようになるだろう。

 要するに、求人市場は明らかにパラダイムの変化を求めているのである。ますます多くの学生が、ますます多くの費用を高等教育に費やしているが、その最大の目的は概して現実的だ。すなわち、みずからの「雇用される力」を高め、経済に貢献する価値ある人材になることである。

 学位に付随する価値はたしかに、取得者にとってメリットにはなる。しかし企業は、知的能力や仕事の潜在能力を測る手段として「高等教育」に重きを置くことをやめ、より柔軟な姿勢で雇用に臨めば、状況を改善できるだろう。


HBR.ORG原文:Does Higher Education Still Prepare People for Jobs?  January 14, 2019.

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トマス・チャモロ・プレミュジック(Tomas Chamorro-Premuzic)
マンパワー・グループのチーフ・タレント・サイエンティスト。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとコロンビア大学の経営心理学教授、およびハーバード大学のアントレプレニュアル・ファイナンス・ラボのアソシエイトも兼務する。近著にWhy Do So Many Incompetent Men Become Leaders? (And How to Fix It)(未訳)がある。ツイッター(@drtcp)やウェブサイトでも発信している。

ベッキー・フランクウィッツ(Becky Frankiewicz)
マンパワーグループの北米担当プレジデント。労働市場の専門家。前職ではペプシコ最大の子会社の1つであるクエーカー・フーズの北米トップを務め、『ファスト・カンパニー』誌では「業界で最もクリエイティブな人」の1人に選ばれた。ツイッター・アカウントは@beckyfrankly