ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第96回は、経営学者であり、『ビジョナリー・カンパニー4』の共著者でもあるモートン・ハンセンによる『GREAT @ WORK 効率を超える力』を紹介する。

これまでの働き方を捨てよう

 今年から働き方改革関連法が順次施行されるなど、従来の働き方を見直す機運が高まっている。残業時間を減らそうとする企業も増えてきているが、それに比例して「業績が落ちてもよい」とは言われない。仕事量が減ったり、求められる成果が下がったりすれば、労働時間も簡単に減らせるだろうが、それが許されないのが実態だ。そのため、いままでどおりの働き方を見直し、生産性を高めることが、より一層求められている。

 本書は、著者の「トップ・パフォーマーたちは、実際には何をやっていたのだろう? 一流の成果を残すための、どんな秘訣を持っているのだろう?」という問題意識から生まれた1冊である。著者はコンサルタントとして働いていた時代、経験不足を残業で補おうとしたという。労働時間は徐々に伸び、ついには毎週90時間も働いていた。その一方で、仕事が出来たある同僚は、決して残業をしなかった。経験も著者と同程度だったにもかかわらず、少ない時間でよりよい仕事をしていたという。

 著者自身の経験と問題意識が紐付いていることで、本書で述べられる内容は、机上の空論で終わらない。ビジネスパーソンが陥りがちなパターンを踏まえて、より賢く働くための方法が提示されている。

 著者の研究チームは、優れた業績のかなりの部分は「“賢く働く”7つの習慣」で説明できるらしいとの結論に達した。本書で述べられる7つは、下記の通りである。

(1)優先すべきことをいくつかに厳選し、そうして選んだ分野に大きな努力を注ぐ(業務範囲の重点化)。(2)あらかじめ定められたゴールに到達するだけでなく、新たな価値を生み出すことに重点を置く(仕事の再設計)。(3)機械的な反復練習を避け、技能を伸ばす練習を行なう(質の高い学習サイクル)。(4)自分の情熱を強い目的意識と一致させられる役割を探し求める(内的動機づけ)。(5)他者の支援を得るために心理戦術をうまく使う(しなやかな主張)。(6)無駄な会議を減らし、参加する会議では白熱した議論が必ず起こるようにする(厳密だが、オープンなチームワーク)。(7)部署横断プロジェクトに参加する場合は、どれに参加するかを注意深く選び、生産性の低いプロジェクトは、はっきりと断る(ほどよい協働)。

 習慣の(1)を考えてみよう。仕事に優先順位を付ける程度であれば、ビジネスパーソンは誰もが行っていると思うかもしれない。しかし、優先事項を選ぶだけでは、半分の効果しかないという。選んだ分野で、抜きんでるための努力を尽くすことで、初めて成功したり、よりよい成果を上げられるのだ。

 このことを示すために、本書では人類で初めて南極点に到達した探検隊と、失敗した探検隊の例を挙げている。成功したのは、輸送手段を1つに絞ったが、その1つに徹底的にこだわった探検隊だった。あらゆる事態を想定して5つの輸送手段を準備した探検隊は、失敗に終わってしまっている。絞り切る、力を尽くしきることは、言うは易く行うは難しである。

 7つの習慣をみても分かるように、本書は「賢く働く」ことを、個人の問題だけに留めていない。個々人が自分の生産性を高めることはもちろん重要だが、仕事は一人で完結するものばかりではない。周囲を巻き込んだり、チームとして動かなければならいない場面も数多く存在する。組織として、より高いパフォーマンスを発揮させるという部分にまで話が及んでいる点が、現代の職場の課題を捉えている。

「『一生懸命にではなく、もっと賢く働こう』というフレーズは、盛んに唱えられていて、今ではすっかり使い古された感がある。そもそも『愚かな働き方』を望む人などいるはずがない。しかし現実には多くの人が、どうすれば賢く働くことができるかをきちんと理解していないため、愚かな働き方をしている」

 著者はこのように述べているが、本書を読むと「賢く働く」は使い古された言葉ではなく、いまこそ問い直すべきものであると感じずにはいられない。「私は賢く働けているのだろうか?」そんな疑問が一瞬でも頭をよぎったのなら、本書を一度読んでみることをお勧めしたい。