マインドフルネスは拡散的思考をどう促進するか

 マインドフルネスとは、オープンかつ思いやりと好奇心のある姿勢で意図的に意識を向けること、と定義される。心理学者はマインドフルネスによって拡散的思考が促進されるメカニズムを探求し続けているが、マインドフルであることと、拡散的思考ができることの間には因果関係があることが証明されている

 マインドフルネスと拡散的思考に関するこれまでの研究は、一般の人々を対象としてきた。だが我々の研究では、特に工学部の現役学生や最近の卒業生を対象として、マインドフルネス、拡散的思考、イノベーションの間にある関係を探ることを試みた。

 我々の研究は、次の2つである。1つ目の研究では、スタンフォード大学工学部の92人の学生を対象に、1回15分間のマインドフルネス瞑想が拡散的思考のパフォーマンスに与える影響を調査した。一般学生を対象とした以前の調査では、1回の瞑想でアイデアを生み出す力が改善したことが示されている。

 この実験に先立ち、参加者全員に通常時のマインドフルネスを測るためのアンケートに答えてもらった。その後、参加者は治療群と対照群に分かれ、拡散的思考に関する2つのタスクに取り組んでもらった。

 1つ目は、レンガの用途をできるだけ多くリストアップする、という一般的なアイデア創出タスクである。2つ目は、洪水対策として防水壁を設計する際に検討すべき要素をすべてリストアップする、というエンジニアリング・デザイン・タスクである。

 治療群の参加者は、タスクの前に15分間の瞑想の指導を受けた。一方、対照群の参加者は、タスクの前にストレスの軽減に関するビデオを15分視聴した。

 どちらのグループでも、通常時のマインドフルネスと、アイデア創出タスクで出されたアイデアの数や斬新さ、およびエンジニアリング・デザイン・タスクで出された要素の数との間に相関関係があることが認められた。通常時のマインドフルネスが高い学生は、拡散的思考タスクの成績も良好であった。

 マインドフルネスと拡散的思考の強化に明確な関係があることはわかったが、1回15分のマインドフルネス・セッションを受けることが拡散的思考のパフォーマンスに与える影響については、結果はまちまちであった。瞑想によって、アイデア創出タスクにおけるアイデアの斬新さはたしかに向上したものの、両タスクで学生が出したアイデアの数には、統計的に有意な影響は出なかった。

 この結果は、マインドフルネスの練習を15分実施することにより、アイデアの斬新さが高まることはあっても、アイデア数の増加にはつながらない可能性があることを示している。今後の研究では、15分間のセッション1回のみでなく、十分なマインドフルネス訓練を取り入れることで、アイデアの質だけでなく数の増加にもつながるか否かを判断できるとよいだろう。

 この研究でマインドフルネスを測定する際には、「意識と注意によるマインドフルネス測定尺度」「好奇心と探求心リスト-II」にある項目を利用し、日々のタスクに意識を向ける際の傾向や、予測できない初めての経験に前向きに好奇心を持てるかどうかを参加者に尋ねた。また、イノベーションにおける自己効力感の測定では、数多くの質問をしたり、周囲を観察することによって新しいアイデアを生み出したりする行動に、どれくらい自信があるかを尋ねた。これらの項目は、革新的な行動スキルに関するダイアー、グレガーセン、クリステンセンによる研究から採用した。

 2つ目の研究では、全米約1400人の工学部の現役学生および最近の卒業生を対象とした調査結果を分析し、マインドフルネスとイノベーションの関係を考察した。執筆者の一人であるシェリが中心となって行っている経時的調査の工学部学生・卒業生調査を利用して、通常時のマインドフルネスと、革新的であることへの自信(イノベーションにおける自己効力感)を測定した。

 工学部の参加者全体では、イノベーションにおける自己効力感は、通常時のマインドフルネスから推し量れることがわかった。興味深いことに、イノベーションにおける自己効力感を推し量るには、マインドフルネスの要素の中でも「マインドフルな姿勢」と呼ばれる要素が最も優れていた。

 多くの調査では、マインドフルネスの意識の側面に焦点が当てられているが、我々の調査では、意識を向ける際の姿勢のほうがより重要な要素であることが示唆されたのだ。言い換えれば、オープンで好奇心を持ち、思いやりの姿勢があるかどうか、である。

 オープンで好奇心のある姿勢は「初心」と呼ばれる。問題を新しい視点から眺め、新たな観点から解決に取り組む力である。経験に対してオープンであり続けることで、一見すると関連性のない概念の間につながりを見出せる可能性が高くなる。これは独創的なアイデアを生み出すうえで非常に重要な要素である。

 一方、思いやりのある姿勢とは、自分自身を思いやるセルフ・コンパッションを指す。セルフ・コンパッションがあれば厳しい自己批判や失敗への恐怖から自分を守ることができるうえ、リスクを取って未知の領域を探求する意欲が起き、これまでにないソリューションにつながっていく。そして、この両方に資するのがマインドフルネスである。

 これらの研究は、工学教育や技術系従業員にとって重要な意味合いを持つ。エンジニアは分析や判断の能力が求められる一方で、1つのアプローチに固執せず、新しいデータを考察できるよう、オープンで好奇心を持ち、思いやりのある姿勢を養うことも必要である。こうした知見は、有望ながらもまだ予備的な段階だ。今後の研究で、工学部の学生や技術職のマインドフルネスを強化するベストプラクティスを探ることができるだろう。

 数十年の研究により、マインドフルネスは訓練を通して高められることがわかっている。結果として、グーグル、シスコ、P&G、フェイスブックなどのフォーチュン100に名を連ねる企業は、マインドフルネスのトレーニングを職場に取り入れることで、創造力やイノベーションを促進している。従業員の感情的知性(emotional intelligence)やウェルビーイング(well-being)の促進にも、マインドフルネスを活用している。

 そうした訓練をエンジニアリング部門にも広げれば、技術的デザインに不可欠な拡散的思考がマインドフルネスによっていかに高められるか、そして意識を向けるだけでなく、オープンであるというマインドフルな姿勢が、イノベーティブな発想をいかに促進するかを十分に実感できるようになるだろう。


HBR.ORG原文:How Mindfulness Can Help Engineers Solve Problems, January 04, 2019.

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ベス・リーケン(Beth Rieken)
工学教育におけるマインドフルネスとイノベーションに関する博士論文を書き上げ、スタンフォード大学機械工学の博士号を最近修得。

ショーナ・シャピロ(Shauna Shapiro)
サンタクララ大学教授、作家、講演家。マインドフルネスと思いやりの分野で世界的な第一人者でもある。

シャノン・ギルマーティン(Shannon Gilmartin)
スタンフォード・VMウェア・ウィメンズ・リーダーシップ・イノベーション・ラボのシニア研究員、スタンフォード大学機械工学部非常勤教授。

シェリ D. シェパード(Sheri D. Sheppard)
スタンフォード大学機械工学部教授。学部、大学院の両方でデザイン関連の授業を担当し、デザイン、および人はいかにしてエンジニアになるのかを研究している。