現代のエンジニアには、専門分野の垣根を越えた難題の解決が求められており、そのためには創造力とイノベーション力が必須である。だが、従来の工学部の教育では、論理的に解を導く「収束的思考」は鍛えられるものの、既存の発想に囚われないアイデアを生み出す「拡散的思考」を養う機会が少ないため、この点で苦労するエンジニアは多い。筆者らの研究によって、マインドフルネスが拡散的思考を促す有力な手段になることがわかった。


 エンジニアリングの仕事では、専門分野の垣根を越えた複雑な問題を解決するために、創造力とイノベーションが要求される。しかし、従来の高等教育における工学課程では、創造力やイノベーション能力は重視されないことが多い。ゆえにエンジニアたちは、重要な分析能力は身に付けたうえで社会に出るものの、創造的な問題解決となると「既成概念に囚われずに考える」ことに苦労するケースがある

 我々の調査では、エンジニアたちが新しいアイデアを生み出す力を高め、新しい考え方や、より優れたソリューションを導き出すには、マインドフルネスが役立つ可能性があることがわかった

拡散的思考の重要性

 エンジニアたちは典型的な技術職の職場で、デバイスやシステム、プロセスのデザインを担当することになるが、そこで目指すべきゴールは相矛盾し、ソリューションが複数存在することもある。

 こういったタスクへのアプローチは一般に、エンジニアリング・デザイン・プロセスと呼ばれる。エンジニアリング・チームにはまず、問題が与えられるか、あるいは問題を特定することが求められる。そのうえで、問題の範囲を明確にし、解決に向けてさまざまなアイデアを出し、それらを評価したうえで、1つのソリューションを提案する。このプロセスを通してエンジニアが用いるのが、収束的思考と拡散的思考である。

 収束的思考は直線的であり、ステップを順に踏んでいくことによって1つの正しい答えにたどり着く思考方法である。 対照的に、最初に提起された問題からさまざまな方向性を探り、可能性のあるいくつものアイデアを生み出すのが拡散的思考である

 デザイン・プロセスにおいて、アイデアを生み出すときに拡散的思考を用いると、可能性のあるソリューションを幅広く見つけ出すことができる。一方、数々のアイデアを評価して、最適なソリューションを決めるときには、収束的思考を用いる。

 最善かつ最終的なソリューションを見つけるには、この両方の思考が重要になる。ただし、革新的なソリューションを練り上げる際に特に重要になるのは、拡散的思考である。とはいえ、工学課程で拡散的思考力はほとんど扱わず、専門分野に絞った狭い技術的な情報を直線的に処理することが重視される傾向にある。そのため工学部の学生たちは、単独で作業をし、「正しい」答えのある体系的な問題に一連の公式や規則を当てはめることに秀でる。

 当然、エンジニアたちは社会に出たときに、拡散的思考で苦労する。ただ幸いにも、拡散的思考の強化に役立つテクニックはたくさんある。

 ブレインストーミングニードファインディングなど、ごく一般的な思考法もその1つだ。たとえばブレインストーミングでは、「判断は後回しにし、好奇心を持つこと」が求められる。スタンフォード大学デザイン・スクールでは、「その瞬間に意識を向ける」ことであいまいさの中を通り抜け、試作段階では「リラックスして、何でも受容できる精神状態にある」ことを勧めている。

 いまに意識を向け、好奇心を持つという要素は、人間の基本的な能力であり、マインドフルネスと呼ばれるものである。