トヨタは社会課題の解決に対して
協調し、競争する

 車の電動化や自動運転などの技術革新で、地球温暖化や地域の過疎化などの社会課題の解決に挑むのが自動車業界です。

 トップ企業のトヨタ自動車の寺師茂樹副社長に、新技術を開発し、社会に浸透させる過程で必要となる業種・業態、官民の領域を超えた連携について聞いたのが、特集6番目のインタビューです。動き出すまでに時間がかかるけど一旦動き始めたら速いと言われるトヨタ、を実感しました。

 変化の根本にあるのは、同社に伝統的な使命感と、100年に1度の変革に対する危機感のようです。特に興味深かったことは、市場の条件に応じた技術推進です。同社はHV(ハイブリッド車)やFCV(燃料電池車)の開発では競合に比べて大きく先行していますが、「いい技術を普及させてこそ地球環境保全に貢献できる」と考え、「工場の副産物で水素が大量に出る地域ではFCV」「水力発電による電力が豊富な国ならEV(電気自動車)」と、社会のエネルギーインフラ全体の中で最適な車の動力を推進していくというのです。

 また、エンジニアの育成では、いわゆる「T」字型人材ではなく、「社会課題の解決に貢献する志」を底辺にもつ「士」型を志向していると言います。

 前述の井上氏の論文では、企業が社会課題に取り組む2つ(戦略と組織)の意義を論じており、戦略の意義の事例として挙げられるのが、トヨタのプリウスの開発です。実現したい未来からの逆算で開発に着手した点を評価しています。

 組織上の意義としては、従業員の「私」と仕事と世の中が1本につながる点を指摘します。プリウスはこの点も当てはまります。仕事に意味を感じている人は、仕事の満足度が高く、そういう仕事は、企業が創りたい未来や自分たちが何のために存在するのかを明示してこそ成立する、と論じています。

 このように、社会課題への対応を企業に迫っているのが、2015年に国連総会で採択したSDGs(持続可能な開発目標)です。その達成に向けた効果的アプローチとしてコレクティブ・インパクトがあり、企業戦略としてのCSVがあります。

 体系的な取り組みが、今日の経営には急務になっています。この点をさらに詳しく知りたいというビジネスパーソンには、『SDGsが問いかける経営の未来』(モニター デロイト編、日本経済新聞出版社)がお薦めです。ユニリーバなどの先端企業がいかに試行錯誤してCSVを実現しているか、世界企業はどのようにSDGsに取り組んで社会から評価されているか、などの最新動向を的確にまとめています。

 また、社会課題の解決に寄与したいと考えるけど、時間などの制約があり最初の一歩が踏み出せないという方は、『寄付をしてみよう、と思ったら読む本』(渋澤健、鵜尾雅隆の共著、日本経済新聞出版社)を読まれてはいかがでしょうか。寄付という身近な行為から、社会への関与を深めていけることがわかります。同書では「コレクティブ・インパクト」と「クラウドファンディング」についても解説されています。社会に貢献する「利他」と自分のための「利己」は、二者択一のものではなく、両立できると説いており、社会価値と経済価値を同時に創造するCSVとの共通思考を見出せます。

 今号のDHBRは、特集外でも、人工知能(AI)と人間の協働策を示す論文「コラボレーティブ・インテリジェンス」、中国の急成長企業アリババの技術活用経営論、INSEAD教授のチャン・キム氏のブルー・オーシャン・シフトによる日本企業の復活策、そして「[2018年版]世界のCEOベスト100」(日本人が5人ランクイン)と、充実したラインアップです(編集長・大坪亮)。