変革の視点でデジタルをどう活用するか
骨太のストーリーが必要

 セミナー最後のプログラムとなったパネルディスカッションでは、早稲田大学教授の根来龍之氏、日本HP 専務執行役員の九嶋俊一氏、モニター デロイトの首藤佑樹氏が、デジタル変革の意義と将来的な推進方法の在り方について議論した。

モニター デロイト
ジャパンプラクティス リーダー 藤井剛氏

 モデレーターを務めたモニター デロイトのジャパンプラクティス リーダー、藤井剛氏は、最初の論点として「デジタル化とは何か?」と問い掛けた。これに対し、根来氏は「製品・サービスのデジタル化とは、既存製品をデジタルに単純に置き換えることではない。デジタル化によって品質が下がるところから出発し、既存製品と重なりながら同時に異なる顧客ニーズに応える製品価値を提供することを意味する。たとえば、新聞というメディアは歴史もあり非常によくできている。しかし、これをデジタルニュースに単純に置き換えようとする既存新聞社はデジタル化に十分対応できない。デジタルニュースは、既存の新聞と重なる部分もあるが、一方で記事がモジュール化され個別に流通し、キュレーションされコメントがつくという異なる価値を利用者に提供すると考える必要がある。多くの企業は既存のビジネスの品質や機能を守ったままデジタル化するという発想になりがちだが、それは違う」と述べた。

早稲田大学
教授 根来龍之氏

 首藤氏は改めて、「デジタル化について議論するとき、技術そのものやテクニカルに業務がどう変わるかといった話に終始しがちだ。企業カルチャーやビジネスモデル変革の視点でデジタルをどう活用するかという骨太なストーリーが必要で、マクロベースの長期視点で見ることが大事だ。米国のデジタル先進企業は10年単位でトランスフォーメーションを考えている。そのためには、メガトレンドやSDGsの視点でデジタル技術が自社に与える影響を考え直すべき」と提言した。

 2つ目の論点は、「DXをどう始めるか?」。九嶋氏は「トップダウンのプレッシャーが重要だ。当社では、新規事業についてもゲートを超えるための高いハードルが設定されている。普通なら短期間でこんなことはできないと音を上げそうな水準だが、逆に言えば、そのくらいのハードルがないと人間は考えないということだ。当然、既存のコア事業とのバランスも必要だが、新規と既存の2つの事業を高い要求レベルの下、マネージしていくことが私の役目だ」と話した。

 首藤氏はこれまでの支援実績を踏まえ、次のように話す。「デジタル変革の現場では、抵抗勢力とまではいかなくても無関心な集団が必ずと言っていいほど日本企業には存在する。したがって、DXをどこから始めるかは実務の中で重要な問題だ。業種によってデジタル成熟度は異なるので、事業ポートフォリオが多様な企業は、受け入れられやすい事業から始めるとよい。最近の成功事例では、地域の観点で分けて取り組むケースがある。日本から始めようとしてもなかなか進まないのなら、デジタル受容性の高い北米などで新しいビジネスモデルをつくり、そこからグローバルに展開していくのも有効だ」。