この発見をビジネスの知見に転換するには、どうしたらいいだろうか。企業は、消費者がこの3つすべてにおいてスローダウンできる場所を提供し始めている。

 たとえば小売業界では、心を落ち着かせ、リラックスでき、プライベートではあるが、双方向の体験を通して顧客に滞在(と消費)を促す「スロー・ショッピング」が、eコマースやハイテクなセルフ・レジへの対抗手段として大いに期待されている。また、スキンケアや化粧品のブランドであるオリジンズでは、店舗を改装して買い物客が腰を下ろせる場所を増やし、身体のスローダウンを促している。同様に英国の高級デパートであるセルフリッジズは、2013年に静寂の部屋をつくり、消費者がリラックスして身体とテクノロジーのスローダウンに取り組めるようにしている。

 観光業界では、身体や出来事のスローダウンは、高級ホテルによる健康重視の一環として長く推進されてきた。一方、たとえばドイツのバーデン・バーデンにあるヴィラ・ステファニーなどでは、Wi-Fiを設置していないことを特長として売りにし始めており、滞在客は体験をインスタグラムに投稿することよりも、休むことに集中している。

 ファッション業界では、パタゴニアなどのブランドが、顧客に投資としての購入を促している。環境に優しく長持ちする衣類やアクセサリーを、本当に使うもののみ少数に絞って購入し、より長く使うということだ。ここに反映されているのは、出来事のスローダウンを通して、自分らしさを保ち物質主義から脱却することを重視する姿勢である。

 このように我々は、スローダウン(特に身体、テクノロジー、出来事のすべてを織り込んだもの)が、個人の心身の健全、環境、企業に等しく恩恵をもたらすものとして促進される動きを目にしている。そして、こうした体験への関心は、今後数年で飛躍的に高まると予想している。

 時にはスローダウンしたいという実存的な欲求を認識することが、顧客を勝ち取る戦略の土台となりうるのだ。


HBR.ORG原文:The Growing Business of Helping Customers Slow Down, December 07, 2018.

■こちらの記事もおすすめします
大きな成功を収めたいまでも、なぜ週70時間働いているのか
忙しい人ほど必要な「考える時間」のつくり方

 

ジアナ M. エッカート(Giana M. Eckhardt)
ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校のマーケティング学教授兼サステナビリティ・リサーチ・センターディレクター。著書にMyth of the Ethical Consumer(未訳)がある。『ジャーナル・オブ・マーケティング』『ジャーナル・オブ・コンシューマー・リサーチ』の編集委員会にも名を連ねる。

カタリーナ C. ヒューズマン(Katharina C. Husemann)
ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校のマーケティング学上級講師。現代の消費者文化における精神性の高まりを研究対象とし、『ジャーナル・オブ・コンシューマー・リサーチ』などに発表している。