●手取り額

 働き手にとって気がかりなのは、時給よりも手取り額だ。米国労働統計局によれば、2017年における小売販売員の年間賃金の中央値は2万3210ドルとされているが、これは週40時間勤務を想定したものである。

 小売業やファストカジュアル・ダイニングのようなサービス業では、そのようなケースはまれである。半数以上の従業員がパートタイム勤務であるというのは珍しいことではなく、名目上フルタイム勤務の人でも、週40時間労働を保証されていないのが通常だ。

 パートタイム勤務は、高校生や大学生の小遣い稼ぎならよいが、2017年には、小売業の販売員の年齢中央値は36歳、レジ係は26歳であった。これらの年齢層は、自分自身と家族を支えるための生活費が必要な人たちだ。

 企業は、自社の従業員の労働時間が非常に短いことを、必ずしも認識していない。ある組織の幹部は我々に、自社の時間給労働者のほとんどが週15時間未満しか働いておらず、年間収入は1万ドルを下回ると知って驚いたと語った。したがって、昇給を検討している企業は、実際の手取り額に焦点を定め、改善を追跡することで、従業員に生活できるだけの賃金を稼いでもらうよう図るとよい。

 ●予測できるスケジュール

 収入が週ごとに異なる不安定さもさることながら、自分のスケジュールを知らされるのがほんの2、3日前であれば、育児や通勤や、その他の生活事項について、計画を立てるのが困難だ。サービス業で働く多くの人が、こうした状況に置かれている。また、企業にとってコストにもなる。

 よい職場を提供しているという定評がある企業は、スケジュールを3~4週間前に提示している。また、カリフォルニアやシアトルをはじめとする地域の新たな法律では、他の組織も後に続くよう促している。

 この慣行を採用する企業は、単に雇用主として優れているだけではない。複数の研究で、小売業従事者のスケジュールの安定が、売上高と労働生産性も高めることが示されている。

 ●キャリアパス

 現在の手取りは働き手にとって重要だが、将来の稼ぎも重要である。最良の雇用主は従業員に対し、新たなスキル習得の機会、その能力を実証する機会、昇進のチャンスを提供することで、当人と家族の経済状態が将来向上するよう保証している。

 たとえば、よい職場の提供者とされるコストコや米コンビニチェーンのクイックトリップなどでは、現場の職はほぼ内部昇進のみであり、社員には昇給と責任拡大につながる明確なキャリアパスを提供している。よりよい働き手を惹きつけ、留めたい企業は、そのようなキャリアパスを設けることが、従業員にとって非常に大事であると気づくだろう。

 企業が自社のシステムを正さないかぎり、昇給しても、自社の業績アップや働き手にとってのよい職場にはつながらない。従業員の生産性、貢献、モチベーションを高めるシステムを構築したならば、昇給は業績アップとよい職場をもたらす諸要因の1つとなるだろう。幸い我々は、そのようなシステムの構成要素について多くを知っている。


HBR.ORG原文:Higher Wages Aren’t Enough to Turn Mediocre Jobs into Good Ones, October 29, 2018.

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ケイティ・バック(Katie Bach)
企業がよい職場を提供することで繁栄できるよう支援する非営利団体、グッド・ジョブズ・インスティテュートのマネージング・ディレクター。過去に、スターバックスでグローバル戦略のディレクター、マッキンゼー・アンド・カンパニーで経営コンサルタント、世界銀行で西アフリカにおける紛争後の雇用プログラムのマネジャーを務めた経験もある。

サラ・カロック(Sarah Kalloch)
企業がよい職場を提供することで繁栄できるよう支援する非営利団体、グッド・ジョブズ・インスティテュートのエグゼクティブ・ディレクター。ツイッターは、@sarahkalloch
 

ゼイネップ・トン(Zeynep Ton)
マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院オペレーションズ・マネジメント・グループの非常勤准教授。グッド・ジョブズ・インスティテュートの共同設立者。トロント大学マーティン・プロスペリティ・インスティテュートのフェローでもある。著書に、The Good Jobs Strategy(未訳)がある。ツイッターは、@zeynepton