GAFAの独占化がもたらした3つのトレードオフ

――競争政策と規制政策、イノベーション政策について研究されています。デジタル経済の時代に望ましい競争政策とは何でしょうか。

 GAFAに対する規制をどうするかということが、多くの国で共通課題となっていますが、日本においても、競争政策の観点とプライバシー保護の両面から課題となっています。

 さまざまな経済問題はトレードオフの関係にあります。そして、デジタル経済をめぐるトレードオフは3つに整理できます。1つは、デジタル経済を活用することによって生産性は向上するが、所得分配の不平等を生んでいること。世界中でベーシックインカムの導入が議論されていることもそのようなトレードオフを反映しています。

 2つ目は、イノベーションと競争のトレードオフです。GAFAは確かに独占的な支配力をもっていますが、彼らはイノベーションに莫大な投資を行っています。彼らがいなければ実現しないR&Dもなされていて、それをどう評価するかは非常に難しい問題です。

 一方で問題になるのは、イノベーションの担い手が集中化し、分散化されていないことです。競争政策の観点からは、イノベーションの担い手が多元化して競争している状況が好ましいと考えるのですが、イノベーションを独占化していくことの危険性について、われわれはもっと考えるべきです。

 イノベーションの独占化が進むことで、GAFAにデータのみならず人材も資金も集中します。優れた研究開発者が高額の報酬で引き抜かれるようになると、「ベンチャーを興すよりは、GAFAで働いたほうがいいか」と考える人も増えてきます。イノベーションの集中化に対する問題意識は、米国でも高まりつつあります。GAFAが次々とベンチャーを買収し、ある程度芽が出ると、「キルゾーン」に入って、本体に引き抜かれ完全に吸収されてしまいます。特許や人材、資金などの集中がGAFAにさらに加速することで、イノベーションが阻害されているのではないかと懸念されているのです。

 実は、日本も同様の問題を抱えています。日本のR&D投資の担い手の多くは大企業で、資金も人も多元化していません。今後、競争政策の観点から考えていくべきでしょう。

 そして3つ目が、サービスの品質とプライバシーです。データが集中することで間違いなくサービスの品質は上がります。しかし、最近、問題になっているように情報漏洩のリスクも高まります。このトレードオフをどう考えるべきか。データ集中とプライバシー保護は相対的な問題であり、欧州のGDPR(一般データ保護規制)は、プライバシーを基本的人権と位置づけ、個人のデータを自己管理する権利を認めました。日本では改正個人情報保護法などでルールを整備してきましたが、GDPRのような包括的なルールはまだ導入されていません。

 いずれにせよ、こうした複雑なトレードオフをいかにバランスよく解決していくかは政策的な課題です。競争政策と規制政策はコインの裏と表。規制を強化すれば競争は後退するし、競争政策を強めれば規制は緩みます。容易なことではありませんが、うまくバランスさせるような最適解を見つける必要があります。