●趣味に打ち込むことは、何にもまして、日々の仕事から距離を置く助けになる

 いつ何時も、多様な人々や物事がCEOたちの注目を集めようと競い合うなか、トップとしての仕事は格段と複雑さを増し、自由時間であっても、常に仕事のことが脳裏から離れないと、多くのCEOは語る。インタビューを受けたCEOの一人は、ため息混じりにこう語った。「まるで仕事に埋もれてしまうような感じになることがあります。寝ているときも、食べているときも、家族や友人といるときも、仕事のことを考えずにはいられないのです」

 研究によると、こうした状態はパフォーマンスに不利益をもたらす。過剰なストレスは戦略的思考の妨げになるだけでなく、攻撃性を高めリーダーとして建設的な行動をとる能力を低下させてしまう。時折、「仕事スイッチ」をオフにすることは、頭の片隅で延々と続けている「反芻(はんすう)」を止めるうえで欠かせないのだが、単にテレビの前のソファーでリラックスしたり、家族と一緒に過ごしたりするだけでは、なかなかスイッチはオフにできないのだ。

 一方で、夢中になれる積極的な余暇活動に取り組むことは、仕事から完全に思考を引き離せる唯一の方法だと研究は示している。エレクトリック・アーツのアンディー・ウィルソンが、こう言ったことがある。「私は、ブラジル柔術のトレーニングをしています。わかるでしょう? 相手が自分を叩きのめそうとしているときに、別のことを考える余裕などないですよ」。

 もっとも、真の情熱がありさえすれば、スイッチをオフするのに、趣味としての活動がそこまで過酷である必要はない。デンツプライシロナの元CEOマーク・ターレルのようにステッカーを集めたり、手の込んだカードを手づくりしたり、またはカージナルのジョージ・バレットのようにバンドでギターを弾いたり、といった活動でも十分没頭できる。

 インタビューを受けたあるCEOはアマチュアのパイロットだが、こう話す。「飛行機の操縦で気に入っていることの一つは、安全に飛行するために、操縦に集中しなければならず、余計なことを考える場合ではないことです」

 ●常に「ベストな自分」を目指して励むことにつながる

 仕事とは無関係な趣味に情熱を傾けることは、よりよい自分を築き、さらに上位レベルの熟練を目指そうとする、たゆまぬ精進を意味する。筆者らの調査対象となったCEOの中には、趣味の活動において、客観的な基準を用いても驚くべき快挙を成し遂げた人も少なからずいる。

 コムキャストのCEOブライアン・ロバーツは、CEOに着任した初年度に、スカッシュのチームを率いて、「マカビア競技大会」で金メダルを獲得した。CAテクノロジーズのマイク・グレゴワールとKLAテンコールのリック・ウォーレスは、二人とも熱心なサイクリストで、「レッドヴィル100」や「デスライド」といった過酷なレースを完走している。エンタジー社のレオ・デノールトは、アイロンマン・メダル4つを獲得している。PNCインターナショナルのビル・デムチャックは、USAトライアスロン・チャンピオンシップの年齢別レースで、36位の好成績を残した。AMGのショーン・ヒーリーは、「ホワイト・マーリン・オープン」で、ボートのエンジンが壊れてしまうほどの長い格闘の末、93.5ポンド(約42.4キログラム)のマカジキを釣り上げ優勝した。

 趣味に打ち込むうえで、競争も確かに動機づけの一つとなるが、彼らのようなCEOのほとんどにとって最も重要なのは、自分自身から最高のポテンシャルを引き出すことであり、そこで得た教訓を仕事でのリーダーシップに活かしているのだ。

 インタビューを受けたバスケットボール好きのあるCEOは、仕事で大きな困難に直面していた時期に、バスケットボール選手としての経験が役立ったとして、とても印象的な話をしてくれた。「私は選手時代、絶対に諦めないことの大切さを学びました。コーチが自分を退場させない限り、全力で、全速で、頑張ることの大切さを教わりました。だから、毎朝目が覚めたら、こう考えるようになったのです。『コーチはまだ自分をコートから追い出してはいない。だから、ベストを尽くさなければ』と」

 ●趣味は、謙虚であることの大切さも教えてくれる

 リーダーとしてのステータスが上がるほど、自分もみんなと同じ人間なのだと、時折思い起こすことの必要性が高まる。トップが謙虚な態度を示すことは、上層部から最下層に至るまで、組織全体のやる気向上や、総体的なパフォーマンスの改善につながるという証拠は複数ある。

 筆者らが話をした数人のCEOは、傲慢な振る舞いを避けることの重要性について触れていた。そのうちの一人は、こう言った。「謙虚な気持ちを保つ助けになるなら、何でも試してみる価値があると思います」

 趣味の活動においては、企業リーダーが「ボス」である必要はない。マイク・グレゴワールは、職場の同僚とチームを組んでサイクリング・レースに参加することがあるが、彼が一番速いわけではない。レースでは、「ドメスティーク」(フランス語で「下僕」を意味するサイクリング用語で、英語では「アシスト」)という役割を担うという。優れたメンバーの勝利を後押しするのがその任務で、他のメンバーに自分の自転車を貸したり、必要ならばレースから身を引いたりすることまで含まれる。

 アメリカン・エレクトロニック・パワーCEOのニック・エイキンズは、チャリティーイベントでドラムを担当したときのことを、こう振り返った。「CEOは常に公の目にさらされる存在。でも、そのイベントでは、まるで雇われた助っ人のようでした」

 ●趣味は「フル・コントロール」体験を与えてくれる

 かつてCEOは、単独で自社の進むべき方向性や命運を変えることのできる、全能な存在だと見られていた。しかし、いまはそうではない。ますます複雑化するガバナンスの仕組み、強くなる株主の影響力、急速な変化のペースや創造的破壊……こうした傾向ゆえにCEOたちの「コントロールパネル」は、以前より不安定なものになっている

 自分の仕事をコントロールしている感覚を持ちたいというのは基本的な心理的欲求だが、むしろトップの地位にいる人間ほど、その感覚を手にするのが難しくなっている。これは、トップリーダーたちの感情的バランス感覚に重大な悪影響を及ぼす。本人も周囲もいまだに、リーダーは絶対的指揮官であるべきだ、という期待を持っているから、なお始末が悪い。

 あるCEOは、こう話してくれた。「金融危機の直後から、サイクリングを始めました。そこで大事だったのは、『サイクリングの活動は自分でコントロールできる。世界はコントロールできないが、どのようにエクササイズするかはコントロールできる。自分がある程度コントロールできる何かを持つことが必要なのだ』ということでした」。

 ●趣味は、これまでとは異なる従業員とのより深いつながりを築く一助となる

 真剣な楽しみとしての活動を持っているCEOのほとんどは、その活動を通じて、従業員たちとのつながりを深める道を見つけている。ケイデンスのリップ・ブー・タンは、自社が毎年主催するバスケットボール・トーナメントに参加している。ボーイングのデニース・ミュレンバーグと、マリオットホテルのアーン・ソレンソンは、世界中の自社オフィスを訪問する際、大勢の現地従業員とチームを組んで、各自お気に入りのスポーツ(それぞれサイクリングとマラソン)に汗を流す。

 こうした活動は、リーダーが従業員から率直なフィードバックを得る貴重な機会を与えてくれる。トップリーダーには、組織の中で何が起きているか、また、企業文化を形成する共通の物の見方は何かを知る義務がある。しかし往々にして、その義務を果たすことに困難を感じる。判断に必要な情報は、すでに確立された、組織階層をまたぐ経路を流れる中で濾過され、潤色されているからだ。従業員とともにマラソンをしたり、社のスポーツチームに加わったりすることは、普段の人の輪の外に一歩踏み出し、人々と交流を持つ非常によい手段なのだ。

 ただし、筆者らがインタビューしたCEOは、独立性を保つことの必要性についても警告していた。オープンなコミュニケーションを取り、従業員の話に耳を傾けるのはよいが、注意しないと、リーダーに過度な影響力を持つ「お気に入り」従業員の集団ができてしまうことがありうる。

 ●趣味は本物のリーダーシップを発揮させてくれる

 本物のリーダーは、人生のストーリー――どのようにしていまの自分が形づくられたか――をつくり上げることによって、リーダーとしてのアイデンティティを構築し、強固なものにする。筆者らが注目したS&P500企業のCEOの大多数は、情熱を注ぐ趣味を学生時代、またはそれ以前に始めており、その活動は、人生のストーリーに完全に組み込まれている。なぜなら、そのような趣味は、みずからの価値観を力強く表現する手段であるだけでなく、確固たるアイデンティティーの一部でもあるからだ(ニック・エイキンズは言う。「私はいまもなお、心の底ではロックバンドのドラマーなのです」)。

 ●趣味は、あなたをよりよいリーダーにしてくれる可能性が高い

 インタビューしたCEOのうち2人はこう言った。「心の働きや思考の鮮明さは、趣味としての活動と深い関係があります」。そして、「その活動は大きなエネルギーを与えてくれます。エネルギーの大きさは、よい結果、楽しさ、自分の持つインパクトと深い相関関係があると思います」。

 ペイパルのダン・シュルマンは、「けっして立ち止まらない」、危機を前にして冷静さを保つ、競合との不必要な対立を回避するなど、リーダーシップに活かされている数々の教訓の源は、格闘技の鍛錬にあると言う。「リーダーシップについて、正規の教育より、格闘技から多くのことを学びました」

 ナスダックのCEOアデナ・フリードマンは、テコンドーがリーダーシップのスキルアップに有益だと強く訴えている。元プロ・ミュージシャンであり、カージナルヘルスのチェアマンであるジョン・バレットは、自身の音楽への情熱が、真のリーダーたらしめることに寄与し、リーダーシップ・スタイルの構築につながったと語る。

 びっしり詰まったスケジュール表に隙間をつくり、真剣な趣味の時間を確保するなんて、いったいどうすればよいのかと首をかしげているだろうか。最近のHBR誌の記事によると、CEOには1日平均2.1時間の「自由時間」があるという。この時間の使い道は、単にリラックスしたり、趣味に精力的に取り組んだりと多岐にわたるが、その時間でさえ細切れで、連続して取ることは難しい。

 仕事とは無関係で、なおかつ情熱を注げる活動の美点を、あるCEOはこう表現している。「何としてでも時間を捻出しようという気になるのです」


HBR.ORG原文: Why CEOs Devote So Much Time to Their Hobbies, October 08, 2018.

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エミリア・ビュネア(Emilia Bunea)
公認証券アナリスト。多国籍企業で経営幹部を20年近くにわたり務める。最近では200万のクライアントを持つ金融サービス会社のCEOを務めた。現在は2社で取締役を務め、世界各地を飛び回り、リーダーシップに関する基調講演やゲスト講演を行う。現在、アムステルダム自由大学の博士課程で、企業のトップが真剣に取り組む余暇の研究を行っている。

スベトラナ N. カポファ(Svetlana N. Khapova)
オランダのアムステルダム自由大学のキャリアおよび組織研究の教授。個人のキャリアを理解し、世界に与える影響に関する研究を続けている。近著An Intelligent Career(未訳)は、マイケル B. アーサーとジュリア・リチャードソンとの共著で、オクスフォード大学出版より刊行された。

エフゲニア I. リソーファ(Evgenia I. Lysova)
アムステルダム自由大学の経営・経済大学院で管理・組織学部の助教授。職業、仕事の意義と意義深い仕事、そして持続可能性が研究のテーマである。アムステルダム自由大学のミーニングフル・ワーク・センターのセンター長を務める。