第1に、あまりにも多くのリーダーが「謙虚さ」と「野心」は両立しないと思い込んでいる。一般的な思考法に従えば、CEOや部長、あるいはチームリーダーになる大きな利点の1つは、ようやく事を実際に動かし、成果を実際に上げられることである。

 マサチューセッツ工科大学スローン・スクール・オブ・マネジメント名誉教授であり、リーダーシップと組織文化のエキスパートであるエドガー・シャインは、管理職への昇進が何を意味するかと学生グループに尋ねたことがある。「学生らは間髪入れず、答えました。『人に指示できることを意味します』と」

 この発想が、すべてを知っているかのように振る舞うリーダーシップの根底にはある。「我々の多くは内心、勝っていないのなら負けている、と信じています」とシャインは指摘する。企業間でも、同じ会社の個人間でも、「人生とは根本的に、そして常に競争である」というのが、エグゼクティブの間の「暗黙の了解」だという。これでは、謙虚さのよさに気づく余裕はない。

 現実には、謙虚さと野心はけっして矛盾するものではない。むしろ、「野心をサポートする謙虚さ」は、大いなる未知にあふれた世界で大きなことを成し遂げようと志すリーダーにとって、最も効果的かつ持続可能な姿勢だ。

 もう何年も前に、IBMの人事プロフェッショナルたちが、この考え方を表現する言葉を用いるようになった。それは謙虚さ(humility)と野心(ambition)を組み合わせた「ハンビション(humbition)」という造語で、「一方に謙虚さ、もう一方には野心」を持つことを指し、最も優れたリーダーが備えている資質であるという。

「世界を変える偉人の大多数は謙虚だと、我々は気づきました」と彼らは書いている。「そうした偉人たちは、自分自身ではなく、自分の仕事に焦点を絞ります。もちろん、彼らは成功を求めます。野心的なのですから。しかし、成功を手に入れるとき、彼らは謙虚です。自分は全能だと思うのではなく、運がよかったと考えるのです」

 リーダーにとって、謙虚になることが難しい大きな理由がもう1つある。それは、最初の理由と関係している。難題に囲まれているときに謙虚な態度を取ると、軟弱な印象を与えかねないのだ。

 みなが答えや確証を求めているときに、リーダーの謙虚さは弱さに見える場合がある。しかし、それこそが謙虚さの美点である。最も優れたリーダーは、すべての答えを知っているふりはしない。複雑な世界にあって、それは不可能だからだ。彼らは、最適任者から最善のアイデアを引き出すことが自分の役目だと理解している。それが誰であろうと、どこにいようと関係ない。

 ここでも、エドガー・シャインは有益な洞察を与えてくれる。『問いかける技術』というすばらしい著書の中で彼は、「話すのではなく尋ねる技術」というテーマについて考察している。シャインは、謙虚さには3つの種類があると言う。1つ目が、「年配の人や偉い人と交流するときに現れる謙虚さ」で、これは社会生活を営むうえで基本的なものだ。2つ目は、「尊敬する成功者に接するときに現れる謙虚さ」で、プロフェッショナルとしての生活の一部である。そして最後が、「人を頼る謙虚さ」である。実はこのタイプの謙虚さは、ビジネスの現場で最も珍しく、かつ、真に大きなことを成し遂げたいと思っているリーダーにとって最も重要なのだ。

「人を頼る謙虚さ」とはどういうことか? それは「あなたを頼っているときに、私が感じる謙虚さ」とシャインは説明する。

「いま、私はあなたより低い地位にいます。なぜならあなたはいま、私が自分の課題や目標を達成するのに必要な知識や技術を持っているからです。私は、一時的にあなたに頼らなければならない立場なので、謙虚になる必要があります。一方で、私は別の選択もできます。他人に頼らなければ果たせない課題にはコミットしない、あるいは頼っている事実を否定して謙虚になることを避ける、という選択です。その結果、必要なものが得られずに課題が達成しそこねたり、図らずも仕事を台無しにしてしまったりするかもしれない。残念なことに、誰かに頼っていることを認めるくらいなら失敗したほうがましだと思っている人が大勢いるのです」

 我々の住む世界では、エゴは注目を浴びるが、成果を上げるのは謙虚さだ。横柄な振る舞いが新聞の大見出しになる傍らで、謙虚さが世界を変えている。

 だからこそ、リーダーもリーダーを志す人も、そして我々もみな、自分に問いかけてみたい。謙虚であり続けるのに、十分な自信はあるか。答えのすべてを知っているのではないと認めるのに、十分な強さはあるか。私たち全員が、正解にたどり着けることを祈っている。


HBR.ORG原文:If Humility Is So Important, Why Are Leaders So Arrogant? October 15, 2018.

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ウィリアム・テイラー(William C. Taylor)
『ファストカンパニー』誌の共同創刊者。最新刊は『オンリーワン差別化戦略』(ダイヤモンド社)。既刊邦訳に『マーベリック・カンパニー 常識の壁を打ち破った超優良企業』(日本経済新聞出版社)がある。