人工知能の能力を身につける5つのステップ

 私が望んだのは、機械学習に関する、より広い理解を促す仕組みを構築することだ。その対象は技術者だけでなく、ノキアの全社員である。

 この目標の達成を目指し、「AI能力を身につける5つのステップ」のテンプレートを作成したことは、私の経験で最も価値あるものとなった。あらゆる業界のリーダーにとって、事業での機械学習活用の知見を探るうえで、これらのステップが参考になれば幸いである。

 1. 全社員に人工知能の基礎を学ばせる

 我々は、機械学習の基礎の習得を義務化する計画を立てている。会社の行動規範を知るのと同じだ。今後はオンラインテストを作成する。全社員がそれに向けて、機械学習を学ぶことになる。

 大切なのは、機械学習を理解できることを、社員に気づかせることだけではない。これには、もっと深い意味がある。学習は人生を通じて続ける必要があり、初めは理解できそうにないと思われた非常に複雑なことでも、実は理解できるのだと気づくことが大切なのだ。

 自分には新しいことを学ぶ能力があるという驚きを社員に与えることができれば、彼ら自身にとっても、会社にとっても、非常にプラスとなるだろう。

 2. 優秀な専門家チームをつくる

 事業リーダーや他の誰かが、アイデアを思いついたとしよう。「こうすれば、お金をかなり節約できるだろう」とか「機械学習システムの活用について教育すれば、この製品の競争力を高めることができる」といった提案を、専門家チームに「それは実現可能だ」「まずは試してみよう」「ありえない」などと評価・判断させるのだ。これは社内の能力センターでもいいし、第三者のAI企業に外注してもいいだろう。

 専門家チームのデータサイエンティストたちは、事業部門の一般的な研究開発チームに送り込まれ、必要な仕事を実現する方法を指南する。そして、プロジェクトが終わるごとに、実践的な経験を通じて機械学習に詳しくなった社員のもとから去っていく。彼らは自分の知識を広めると同時に、本部の能力センターに戻ったときには、現場での成功経験を共有することができるのだ。

 ところで、専門家チームを本部に集約することが重要なのには理由がある。今日の厳しい人材市場では、機械学習の優秀人材を採用する際に、彼ら自身と同じように有能な同僚と仕事ができることを知らせておけば、格段に有利だからだ。

 3. 堅牢なITシステムとデータ戦略を組み合わせる

 ITシステムの構築においては、自社がアクセスできるすべてのデータサブセットと、他のあらゆるサブセットとの組み合わせを可能にする必要がある。それによって、特定の機会学習システムの導入に必要となる、正しいデータを収集できるようにするためだ(国によっては、個人情報関連法との兼ね合いで困難かもしれない)。データレイクの構築は、純粋にITの仕事である。

 これと対を成す戦略面では、将来必要となるデータに関する予測が必要となる。3~5年後、当社のビジネスの中には、導入する機械学習システムによって競争力が大きく左右されるものが出てくるだろう。将来を見据え、競争力の向上に欠かせないシステムに学習させるためのデータを把握して入手する必要があるのだ。

 4. 社内に機械学習を導入する

 機械学習で人間の作業を増強すれば、もっと迅速かつ的確にこなせる仕事は無数にある。そのためには、社員の行動を変え、自分の周りの仕事すべてを自動化のチャンスと捉えてもらう必要がある。

 5.機械学習を製品とサービスに取り入れる

 機械学習をどう活用すれば顧客に対する競争力が向上するのかを、常に分析しなければならない。

 AIの将来にとって、これら5つのステップはどれも等しく重要なので、すべてを同時に実践しなければならない。社員に機械学習の基礎を教えながら、ITインフラの構築に着手し、人材を発掘し、既存のITチームと協力して、自社の製品とサービスに機械学習の能力を追加するよう取り組むことは可能だ。

 機械学習能力のさまざまな要素のレベルを同時に向上させれば、各要素がつながり合い、関係する要素すべてが強化されるだろう。ある要素が別の要素の足を引っ張るのではなく、すべてがともに前進し、教訓を共有し、新しいアイデアを生み出し、勢いに乗るのだ。

 私はしばしば、自分のことを起業家だと説明する。起業家精神を持つと、何もかもがみずからの責任になる。本気で考え、それを行動で力強く、はっきりと伝えるようになるのだ。

 私はノキアのCEOと経営陣に対し、機械学習へのテコ入れを早急に始める必要性について、ただ説明するという形でも後押しできたかもしれない。しかし、口だけで言うのは簡単だ。人々に見える形で行動を起こし、見習いたいと思わせるほうが、どんな立派なスピーチよりも価値がある。

 グローバル企業の会長が、学校に戻って大事な技術を学んだ――。この事実は十分に新奇であり、人々の注目を集め行動を促すことにつながった。

 これが単なる始まりにすぎないことを願っている。


HBR.ORG原文:The Chairman of Nokia on Ensuring Every Employee Has a Basic Understanding of Machine Learning — Including Him, October 04, 2018.

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リスト・シラスマ(Risto Siilasmaa)
2012年からノキア会長。エフセキュア創業者兼会長。著書にTransforming NOKIA(未訳)がある。