技術開発だけでは勝てない
そこで出会ったディープテック

 ビジネスの進め方の違いや最終的な結果の差をまざまざと見せつけられた筆者は、「技術開発だけでは勝てない」と痛感し、その後、ビジネススクールに通いMBAを取得した。その過程で、スタートアップに出資をするベンチャーキャピタリストという仕事に興味を持ち、産業革新機構に転身。そこで、ディープテック領域で活躍するスタートアップや企業と出会うことになった。

 たとえば、次世代型電動車椅子・パーソナルモビリティーを開発するWHILLや、東京理科大学発のウェアラブルロボット開発をするイノフィス、太陽光発電用シリコン等のスライス加工に用いるダイヤモンドワイヤーを開発する中村超硬などである。

 このような企業は、ハードウエアや新素材などを活用した製品やソリューションが多い。インターネットサービスやスマートフォンアプリ開発などの「ライト」な領域と比べて、規模の拡大が容易ではなく、事業が成功するまでに長い時間と多額の費用(投資)が必要とされる。

 また、そのほとんどが、大学や研究機関による長期間の研究開発によって特許化された技術や、そこでのノウハウが蓄積された技術を活用している。そのため、10年ほど前までは、その資金調達は非常に困難で、研究者として、自分の開発した技術を用いて起業するという選択肢はなかなか描けなかった。

 しかし、ここ数年、海外(特に米国)ではWEBサービスやアプリなどの領域に比重が傾いていた投資が、より回収に時間のかかるディープテック領域に戻り始めており、日本においてもディープテック・スタートアップ対する投資が増え始め、ディープテックの潮流が確実に訪れている。今後、かなり大きな注目を集めることとなるだろう。

ディープテックとは
社会にインパクトを与える技術

 ここでもう少し、ディープテックの定義や意義について述べておこう。

 フランスに、最先端のディープテック研究者や大学、研究機関だけでなく、スタートアップや起業家、企業、投資家などをグローバルに束ねて連携させている団体がある。それがフランスのNPO法人Hello Tomorrow(ハロー・トゥモロウ)だ。

 彼らは、革新的技術の社会実装を加速させることをミッションとして掲げ、ディープテックを世界中に広めている。彼らがボストン・コンサルティング・グループと共同作成したレポートでは、ディープテックを次のように定義付けしている。

 ディープテックとは、以下の4つの要素を含んだ製品・サービスのことを指す。

 ・最先端の科学技術、または研究開発を基礎とした技術がある。
 ・実現までに高いスキルと非常に多額の投資額と長い時間がかかる。
 ・多くの場合、具体的な製品・サービスが見えていない。
 ・成功した場合のインパクトが非常に大きく、破壊的ソリューションとなり得る可能性を秘めている。

 かみ砕いていうと、ディープテックとは、大学や研究機関で長期間かつ多額の費用をかけて研究開発された技術(眠っているような技術)を基に、世の中の生活スタイルを大きく変えたり、社会の大きな課題を解決したりする技術のことである。

 当然、このような技術を持つディープテック・スタートアップは、これまで全くできなかったことを実現して世の中を大きく変える可能性や、巨大なビジネスチャンスをもたらす可能性を秘めている。

 その一方で、ビジネスとして成り立たせるためには、投資額や回収期間とのバランス、技術的に解決すべきハードルなど、多くの困難を乗り越えなければならない。素材化学などでよくあるが、その素材のこれまでにない特性が適した用途を見つけるまでに非常に時間がかかる場合が多い。

 そのため、スタートアップ1社でそのすべてを乗り越えるのは難しい場合が多く、大企業や他の研究機関など、多くのステークホルダーが関わることで発展していくのだ。

 それでは、なぜいまディープテックなのか。