CSVと経済価値創出は
矛盾しない

 プログラム後半では、モデレーターとして石倉洋子氏が再登場し、パネルディスカッションが行われた。パネリストは、JVCケンウッド取締役専務執行役員の宮本昌俊氏、住友商事取締役専務執行役員の高畑恒一氏、ネスレ日本取締役兼専務執行役員トーマス・ケラー氏の3人。コメンテーターとして『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)誌の大坪亮編集長が加わった。

パネルディスカッションでは、「社会的課題の解決とCFOの役割」などについて語り合った。

 最初のテーマは、「社会的課題の解決とCFOの役割」について。石倉氏は「社会的課題の解決に向けた取り組みは、一見、CFOの仕事と関連性が低いようにも思うが、現状はどうか」と投げかけた。

 これに対し、JVCケンウッドの宮本氏は、「CFOの役割をどう捉えるのかによる。CEOの片腕とするならば、事業全般を広範に見ていく必要があり、サステナビリティの実践は大きな課題となる。特に限られた経営資源をどこに割り振るか投資判断を迫られるような局面では、CFOの役割は重要だ」と発言。

 住友商事の高畑氏は、「我々はSDGsを守りの課題ではなく、企業成長につなげたいとの思いが強い。この部分は本来、CSO(Chief Strategy Officer)が見ているが、経営資源の配分については、CFOも大きく関わる仕事だ。IR活動やESG投資家との対話といった対外的接点もCFOの重要な役割であり、CSOと一緒になって取り組んでいる」と説明。

 ネスレ日本のトーマス・ケラー氏は、「CSVはネスレの事業戦略の一つであり、CFOはその実行を担っている。CSVはコストと見なされることもあるが、短期的な業績目標と長期的成長目標の2つの達成に向けて、社内のバランスを取るのもCFOの仕事だ」と話した。

 続いて石倉氏は、「日本の企業は何でも単独で行おうとするが、海外の企業は他と組むことが上手。社会的課題の解決に向けた外部との協働とそこにおけるCFOの役割は」と質問。ケラー氏は、「(外部との協業という点に関して)パートナーシップの形態にもよるが、CFOの役割としては、財務面を含めた相手先の調査、お互いの責任範囲やコミットメントのあり方を細かく詰めたうえで契約書に落とし込んでいくことなどが挙げられる」とした。

 宮本氏は、「短期的な案件、金額の小さいものは、部門ごとに判断を委ね、長期にわたり投資金額が大きくなる案件は、CFOが関与する」と話した。

 高畑氏も「事業戦略を実行するのは、6つの事業部門。我々の役目は、それを後押しするために会社全体のインフラ整備や、経営資源の配分について考えることだ」と言う。

 最後に石倉氏が、社会的課題の解決に向け「CFOがやるべきこと、やるべきでないこと」を聞くと、高畑氏は「社会的課題の取り組みを企業価値向上に結びつけるのは、我々管理部門だけでできることではない。フロントにいる営業部隊にも腹落ちし、前向きに実行してもらうことが大事。意識の共有、浸透に向けて尽力すべき」と回答。

 宮本氏は、「まずはトップのコミットメントが不可欠であり、それを自分たちの事業活動にどう結びつけるかという道筋を描くことが活動推進のカギとなる」。ケラー氏は、「CSV成功のカギは、事業戦略に統合すること。CFOはこれに向けて取り組むべきだ。社内外とのコミュニケーションも重要な役割」と助言した。

 これらの議論を踏まえ、DHBR誌の大坪氏は、「企業でイノベーションが起きないのは、課題設定力が不足していることが原因の一つと言われるが、SDGsはESGの観点から17の目標を設定し、それに対してどう取り組むかが問われている。社会的課題の取り組みは攻めのESGにもなり得る切り口だ。長期的にはESG投資に積極的な企業が市場平均をアウトパフォームするという研究論文もある」とコメントした。

 石倉氏も「CSV、SDGsの取り組みは、一過性のものではなく、継続的な取り組みが大事。そのためにも事業戦略に結びつけ、自らの取り組みを社内外に積極的に発信していくことが大事」と結んだ。