チャン・キム教授と日本のリーダーが語る
ブルー・オーシャン・シフトの重要性

 小休憩ののち「日本で今、ブルー・オーシャン・シフトが必要な理由」と題したパネルディスカッションに移った。パネリストはキム教授と山口氏にシニフィアン代表の朝倉祐介氏が加わり、早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄准氏がファシリテーターを務めた。入山教授は2015年に発刊された『[新版]ブルー・オーシャン戦略』の監訳者でもある。入山教授は「手前ミソになるが、『[新版]ブルー・オーシャン戦略』が予想以上に売れている。それは時代がブルー・オーシャンに追いついてきたからではないか」と口火を切った。

早稲田大学ビジネススクール准教授 入山章栄氏

 朝倉氏はその言葉にうなずき「私もブルー・オーシャン・シフトに関心が集まっている理由はそこにあると考えている。私の近著『ファイナンス思考』では、損益計算書上の指標である売上げや営業利益を最大化することを経営の目的にした考え方を、PL脳と呼んだ。そのことが日本企業の縮小均衡を促している要因だ」と指摘した上で、「市場のパイが膨らんでいた高度経済成長期はPL脳でも何とかやっていけた。目先の売上げや営業利益を伸ばしていくと自然と会社も成長できた。しかし、いったん市場の成長が止まるとコストの削り合いになってしまった。この均衡状態から抜け出して新しい市場を切り開いていくためには、長期的な観点から将来のキャッシュフローの最大化を図るファイナンス思考が必要だ」と問題提起し、「私の著書は多くの人から賛同を得たが、それはブルー・オーシャン・シフトが求められる時代感覚と相通じるところがあるだろう」と述べた。

シニフィアン代表 朝倉祐介氏

 山口氏は「経営者である以上、短期の業績責任は問われるが、私はスタディサプリだけではなくゼクシィやカーセンサーなどのレッド・オーシャン事業の経営も担っている。その中で大事にしていることは短期の業績だけではなく、長期的に事業がレッド・オーシャンの中でも一番海面に近いところで旗振りができているかどうかだ。その上で隣接した市場に青い海がつくれないかをいつも考えている。リーダーとして常に青い海を描き、メンバーに語りかけていかないと未来が見えないからだ」と語った。

 山口氏の言葉を受け朝倉氏は、「それは40歳という山口氏の年齢にも関係するのではないか」と指摘した。「失われた10年、20年の時代の経営層は逃げ切れる年代の人たちだった。しかし、今の部長層は逃げ切れない世代だ。それなら勇気を出して新しい道に進むしかない。時代がブルー・オーシャン戦略を求めている理由の一つに、逃げ切れない人たちが意思決定権を握るようになってきたこともあるだろう」と分析した。

 一方、キム教授は「ウォールストリートでは現在の利益と、成長の余地があるかどうかという2つの指標を見る。PLは良くても成長の余地はないと思われると株価は下がり、先の見通しが明るく、キャシュフローにも問題がないとなれば株価は上がる。日本の会社はたくさん現金を持っているが、今はどこに使えばいいかわからない状態になっている。PLを管理すると同時に、様々な手法を使って測定可能な形で成長を管理する必要があり、この2つのバランスをどうとるかが重要だ。利益と成長は決してトレードオフの関係にあるのではない」と述べた。

 キム教授は「80年代になって日本が世界第2位の経済国になった時にマインドセットが変わって失うことを恐れ始め、成長したいという気持ちをなくしてしまった」と嘆き、「今の日本の課題は、もう一度成長しようとマインドセットを変えることができるかどうかだ。それには経験則に基づいたサイエンスベースの方法論が必要だが、その中には人間らしさもなければならない。イノベーションとクリエイティビティは人間にとって最大のモチベーションになる。それによって今、日本が抱えている問題は解決できる」と語った。

 最後に、会場から出された「新しくブルー・オーシャンを切り開く時、自分がいた分野に関連する市場がいいのか、全然違う市場に人やリソースを取り込んで投入するべきか」という質問にパネリストたちが答えた。

 山口氏は「自分がイメージできない新規事業はやりたくない。チームの中に自分が想像しえない視座・視点を持ったよそ者を巻き込み、今当たり前と思っているものを否定して、レッド・オーシャンの中や隣に新しくブルー・オーシャンをつくることを考えたい」と答えた。

 朝倉氏は、キーワードは「混ぜるな危険」にあると言い、「既存事業をうまくオペレーションできる人と新規事業を生み出すことができる人は才覚が違う。人事制度も含めて完全に隔離して進めることをお勧めする」と述べた。

 最後にキム教授は「ブルー・オーシャン戦略を実行する際に重要なのは、共通のコミュニケーションシステムをつくって組織的にやることと、それぞれの役割や責任を明確化することである。それができれば GAFAを相手に競争できるようになる。そして2020年以降、日本は再び成功し、世界でリーダーシップを取り戻すことができる」と述べた。

 日本を励ますこのキム教授のポジティブな話に会場から拍手が起こる中、入山教授は「キム教授がおっしゃったように、日本の未来は実は明るいのかもしれない。それにはブルー・オーシャン・シフトの考え方をより実践的な形で埋め込んでいくことが重要だろう」と締めくくった。