グーグルが「ギガ・ゲーム」に火をつける

 グーグルは全米ブロードバンド計画チームの要請に応え、光ファイバーによるギガビット・ネットワークの実験用プラットフォームの構築を示唆した。そして、次世代インフラなしには実現不可能な、新しいアプリケーション(バーチャルリアリティ、スマートグリッド、自律走行車、高度な遠隔医療、電子政府、遠隔教育など)の競争上および経済的な重要性を証明しようとした。

 同社は、既存のプロバイダーや政府出資による実験を待つのではなく、実験的ギガビット・ネットワークを自社がいくつか構築すると発表した。誰もが驚いたのは、予想していた10~50を大幅に上回る1100もの都市から、実験に参加したいとの申し出が殺到し、同社が悲鳴を上げたことだ。

 各都市は、自分たちのコミュニティが実験の場となることに、大きな価値を見出した。また、グーグルの要望が、税優遇やその他の財務的インセンティブよりも、実施のスピードであることを理解した。特に重要なのは、環境構築の遅れの最小化による工費抑制に、参加コミュニティが本気で取り組むことだ。要するに、グーグルは競争相手ではなく、パートナーを求めたのである。

 選ばれた都市は、行政面の効率化で協力した。単一の主契約、自治体の連絡窓口の1本化、市の所有物に設備を設置する許認可手続きの簡素化、通信ケーブルの地下埋設の許認可などである。こうした財務的、時間的、政治的対立によるコストが、ネットワーク構築における大きな障壁となることは、以前から証明されていた。敷設を迅速に実行できなければ、起業家的活力と競争上のエネルギーを発揮できないということを、グーグルはわかっていたのだ。

 グーグルの真の目的は、全米規模のブロードバンド事業者になることなのか。それとも単に、既存のプロバイダーや他の新規参入企業による次世代ネットワークへの投資を刺激することなのか――。

 同社はこの点を明確にしなかった。ただし明らかなのは、同社の光ファイバーへの関心が、次の確信に基づいていたことだ。より高速なインターネットは、結果的にアルファベットの広範な事業で、さらなる収益とサービスを生み出すことになり、この投資が利益をもたらさなくても正当化できる、という確信である。競争力のあるプロバイダーになること自体は、二次的な願望だったのだ。

 こうしてグーグルは実験地域を発表した。すると、既存のブロードバンド事業者(AT&T、センチュリーリンク、コムキャスト、タイム・ワーナー・ケーブルなど)は、ただちに対抗策を打ち出し、料金改定や通信速度の向上、ネットワークの改良、またはそれらの組み合わせを宣言した。「ギガ・ゲーム」の勃発である。

 最終的にグーグルは、光ファイバーを34都市に敷設する計画を発表し、いわばブロードバンドの「もぐら叩きゲーム」を展開した。既存のプロバイダーは当初、グーグルの取り組みを宣伝行為だと軽視していた。しかし、グーグルが追加の拡張計画を表明すると、それらの事業者は、各都市で自社の光ファイバーへの取り組みを加速・優先するようになったのだ。

 都市のリーダーはギガ・ゲームの進展に伴い、行政上の優遇策をグーグル・ファイバーだけでなく既存事業者にも提供せざるをえなくなった。これにより工費が下落し、敷設スピードが速まる。ファイバー・ブロードバンド協会によると、グーグルの最初の計画発表からわずか6年後に、米都市部居住者の30%がギガビットのインターネットサービスを利用できるようになったという。

 グーグルは2016年に拡張計画中断したように見えるが、ブロードバンド事業は恒久的に変わった。元は電話会社だった企業が、光ファイバーへの投資を加速あるいは再開している。AT&Tやセンチュリーリンク、フロンティアによる新たな一般家庭向け光ファイバーサービス(FTTH)が始まり、同様に、光ファイバーと銅線のハイブリッド技術でさらに進化したDSLもすぐに導入された。ケーブル事業者もふたたび技術を改良し、ギガビット対応のサービス展開を加速させた。遠隔地向けには、低軌道衛星や「固定無線」などの新技術が開発された。

 高速ケーブルと低速DSLの2つに分断されていたブロードバンド市場は、自由競争市場に取って代わられ、既存事業者にも新規参入者にも、いっそう破壊的な戦略を取ることが迫られるようになった。その結果、プロバイダー同士の競争と、民間投資による形勢の一変を狙う都市間・地域間の競争が激化している。

 だが、グーグル・ファイバーがもたらした最も大きな影響は、インフラ提供企業と地方自治体の関係のあり方を変化させたことだと我々は考えている。

 1980年代から1990年代の大幅な規制緩和を経ても、そして、さまざまなネットワークやテクノロジーがインターネットをベースとした標準に収束されて以降もなお、地方自治体はネットワーク・プロバイダーを特殊法人のような公益企業として扱い続け、施設建設事業と敷設権の取得を、何十年も前に定められた煩雑な手続きで規制してきた。

 しかしグーグル・ファイバーのおかげで、そうした独占的な考え方は影を潜めた。両者とも相手に逃げられるおそれがあることを理解したのだ。都市側は、非効率的な敷設管理を強いれば、プロバイダーが別の都市に投資してしまうことに気づいた。かたやプロバイダーは、サービス向上と新たな導入によって、相手の利益にならない限りは都市の協力を得られないと悟った。

 グーグルに引きずられる形で、プロバイダーと都市は、それぞれの目標において「双方が、与える以上に多くのものを得る」形で官民パートナーシップを築くようになった。リサーチ・トライアングル(ノースカロライナ州中央部の学術都市圏)のノースカロライナ次世代ネットワークなどがその例である。