では、不況時に就職することが、人の尊大感や権利意識を抑える影響を及ぼすのなら、ビジネス上の非倫理的な行為に携わろうという気持ちも抑制されるのだろうか。

 その可能性は、複数のエビデンスから示唆されている。過去の研究によれば、ナルシストは、非倫理的な行動をとる、同僚を妨害する、知的犯罪で有罪判決を受けるといった傾向が高いという。

 不況時の卒業生はナルシストになる可能性が低いとすれば、道徳上・倫理上の一線を越える可能性も低いのだろうか。

 この考えに一致する次のような研究結果を、同僚のアーロン・モーリバーと私は見出した。ストックオプションのバックデート(権利を付与した日を株価の低い日に書き換えること)は、非倫理的かつ違法な行為であるが、1990年代後半と2000年代前半には一般的に行われていた。だが、不況時にキャリアを開始したCEOは、自分のストックオプションのバックデートを行う傾向が低かった。

 このように、不況時の卒業生は、自分がとびきり重要人物で破格の注目と称賛に値すると見なす傾向が低いのみならず、自組織を犠牲にして私腹を肥やす行為に携わる傾向も低いというわけだ。

 先般の世界金融危機の間にキャリアを開始した人の多くは、混乱する不確実な時代に就職したがゆえの傷を、いまだ抱えている。

 彼らは、履歴に穴があったり、給与額の桁数が小さかったりするかもしれない。だが、そのような厳しい経験は、職業人としての自分をより幸福で、利己的でなく倫理的な人間にするうえで役立っていると思われるのだ。


HBR.ORG原文:People Who Graduate During Recessions Earn Less Money  — but They’re Happier, September 21, 2018.

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エミリー C. ビアンキ(Emily C. Bianchi)
エモリー大学ゴイズエタ・ビジネススクールの組織学・経営学助教授。主な研究テーマは、不況時に成人になることがその後の態度・行動に及ぼす影響、および現在の経済状況が個人間の交流、社会的支援、協力に及ぼす影響について。