その1つとして、不況時の就職者はそうでない就職者と比較して、みずからの仕事により満足している傾向にある。たとえば、私はある論文で1638人を対象に、仕事に対する姿勢を15年にわたり調査している。不況時の卒業生は、そうでない卒業生よりも収入が少ないにもかかわらず、キャリアの初期と数年後のどちらでも、仕事に対する満足度が有意に高かった。

 これらの結果は、業種や職業選択の違いによって説明できるものではなかった。それよりも、不況時の卒業生は、みずからの仕事について、よりポジティブに、最終的に満足のいくように考える傾向にあった。選ばなかった道のことをくよくよ考えたり、こうだったかもしれないなどと思いを巡らしたりするのではなく、自分の仕事の良い点に着目し、仕事へのありがたみをより強く感じていたのだ。

 一方、好況時にキャリアを開始した人は、後悔や、疑念や、「もしも~していれば」という仮定に悩まされる傾向が高かった。

 不況時に就職することは、仕事に対する考え方のみならず、自分自身の見方にも影響を及ぼすようだ。

 自己中心度を示す1つの基準として、ナルシシズムがある。自分は特別で、独特であり、良い結果を得る資格があるという信念だ。このような姿勢は、職場で大きな代償を伴う可能性がある。ナルシストは自己の利害に執着し、たとえそれが他人に害を及ぼす場合でも意に介さない。また、憤慨したり攻撃的になったりしやすく、雇用主や株主の財産を奪う傾向もことさらに高い。

 不況時の卒業生は尊大な自意識を持つ可能性が低い、と思われる理由が1つある。ナルシシズムは、逆境や挫折によって、抑制されるようであるからだ。

 景気の低迷時にキャリアを開始した人は往々にして、求職とキャリアの確立に、より苦労している。故郷に帰ったり、大学の学位を必要としない職に就いたり、パートタイムの仕事のかけ持ちを余儀なくされている人も多い。このような困難により、独立やキャリア構築は難しくなる可能性がある一方で、自我が膨らみすぎるのは抑えられるようだ。

 私は、3万人超の米国人の代表サンプルから得られたデータを用いて、不況時の卒業で本当にナルシシズムが抑制されるのかを検証した。その結果、景気が悪い時期に大人になった人は、もっと好況時に成人を迎えた人よりも、ナルシスト度が低いことがわかった

 同様の結果は、CEOの間でも見られた。経済的に困難な時期にキャリアを開始した企業リーダーは、もっと好況時にキャリアを開始したCEOよりも、ナルシスト度が低かった。