●自分の信念にたえず疑問を投げかける

 まずは、難しい決断に直面するたびに、2つの重要な質問を自身に問いかけることから始めよう。その2つとは、「何か見落としていないだろうか」と「ほかに何が真実だろうか」である。

 私たちはたいてい、既知のパターンに頼る。確証バイアスは、包括的な視点を得ようとしているときに最も有害、かつ最も予測のつく影響を及ぼす要因の1つだ。

 私たちはごく幼いころから、世界の成り立ちと、自分なりの真実に関する物語を頭の中でつくり始める。やがて気づかぬうちに、自分がつくり上げた物語が事実だと信じるようになり、たいていは、その物語に沿って残りの人生を過ごす。「ボクサー」でポール・サイモンが書いた歌詞にも、こうある。「人は自分が聞きたいことを聞き、ほかは聞き流す」。確証バイアスは安心感を高めるが、その反面、より微妙な色合いの可能性を見えなくするのだ。

 実際のところは、どんな強みも乱用されれば、欠点になりうる。あなたの主な強みの1つを、ちょっと思い浮かべてほしい。それから、こう自問しよう。「この強みを乱用すると、どんなことが起こりそうか。仕事の仕上がりに、どのような支障があるか。またバランスを取るには、どのような資質を養わなければならないか」

 たとえば、自信も過剰になれば、傲慢になる。「自信」の唯一の対極は「不安感」という固定観念にしがみついている限り、「謙虚」という資質を高めて、よりバランスの取れた見方を手に入れられる可能性は極めて低い。だが、多角的な見解を手に入れるには、このバランスを取る資質が不可欠である。

 ●最も困難な課題を毎日、最初にする

 私たちが出会うほとんどのリーダーのスケジュール表は、分刻みだ。たいてい、会議に次ぐ会議で、その合間(しばしば移動中)にメールを書く。要求は引きも切らず、即答へのプレッシャーは、より複雑な思考力を弱める。迅速な決断力が不可欠な場合もあるが、時期尚早に決断するよりも、困難な問題との格闘を経ることで含蓄あるソリューションが生まれる。

 私が生活に組み入れている最も強力な決まり事の1つで、多くのリーダーとも共有している習慣がある。それは、1日の最初に優先する仕事として、最も困難な課題に少なくとも60分間は中断しないで取り組むことだ。これを予定に入れることで、私は複雑な問題に取り組む時間と集中力を確保している。さもなければ、より緊急だが、知的要求水準と付加価値はより低い事項に時間も集中力も費やしてしまうからだ。

 ●感情の動きに細心の注意を払う

 複雑さを受け入れることは、認知的なチャレンジであるばかりでなく、感情的なチャレンジでもある。それには、ある程度、ネガティブな感情、とりわけ怒りと恐れをコントロールする術を習得することが必要だ。

「闘争か逃走か」状態に入り込むと、視野が文字通り狭くなり、前頭前皮質が機能しなくなり始め、反応力が高まり、熟考する能力が低下する。このような状態にあるとき、私たちの集中力は、目の前の仕事から自分の価値観を守ることへとシフトする。自分がそうした状態にあると気づくだけでも、攻撃したり、責めたり、八つ当たりしたりする傾向を抑え、自己の内面と向き合い、バランスを回復する助けになる。

 何かのきっかけで感情が高ぶったときは、わずか60秒間の深呼吸が、心理的・感情的平衡を維持する強力な手段になりうる。あるいは、デスクから立ち上がって5〜10分ほど散歩に出かけるといったシンプルな行動も効果がある。感情的に反応するとき、思考は一面的になりがちだ。

 何にもまして、複雑な状況をコントロールするには勇気が必要だ。不確実性という不安定な状態に身を置いて、流れの中で過ごす意志が必要なのだ。

 そのベスト・プラクティスは、ベスト・プラクティスに頼らない、ということである。なぜなら、ベスト・プラクティスは一般的に、既存の思い込みと世界観から生じているからだ。リーダーシップ・コンサルタントのザファール・アチいわく、「複雑系にレシピはない。あるのはアートだけだ」。


HBR.ORG原文:What It Takes to Think Deeply About Complex Problems, May 09, 2018.

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