以上の研究結果には、重大な制限がある。第1に、これらの結果は新しい知見であり、独立した別の研究所ではまだ再現されていない。したがって、上記の結果は初期証拠と見なされなければならない。第2に、サンドバーグのメッセージは主に、白人が大多数を占める企業に勤務する米国人キャリア女性に向けられたものであるため、我々の研究結果も同じ環境に限定される。エンパワーメント・メッセージが、有色の女性や労働者階級の仕事に従事する女性に対する見方に、どのような影響を及ぼすかについては、まだわかっていない。

 とはいえ、社会的不公正がどのように理解され、解明されるかを研究する行動科学者として、我々は以上の研究結果に困惑している。人間は不公正を好まない。そして、容易に是正できない時はたいてい、その不公正を許容できるように発想を転換する。被害者が苦しんでいる原因は被害者にあるという考え方は、その典型的な例だ。あの人が苦しんでいるのはあの人自身が「何か悪いことをしたに違いない」というわけだ。

 サンドバーグに、不平等の責任を女性に負わせる意図があったなどと示唆しているわけでは断じてない。だが、『LEAN IN』の主なメッセージ、すなわち、男女不平等への対処法として個人の行動を強調する考えは、女性自身が男女不平等を持続させ、引き起こしてさせいるとの認識につながりかねないと、我々は強く危惧している。

 今回の研究結果は、職場で男女平等を実現するには構造改革と社会変化が必要だと考える人(サンドバーグも含む)にとって、気がかりなはずだ。なぜなら今回の結果は、女性がリーン・インする自助の大切さを強調するほど、不平等の原因も、解決する責任も女性にあると考える人が増える可能性があることを示唆しているからだ。


HBR.ORG原文: “Lean In” Messages and the Illusion of Control. July 30, 2018.

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グラーニア・フィッツシモンズ(Grainne Fitzsimons)
デューク大学フュークア・スクール・オブ・ビジネスの教授、および同大学の心理学・神経科学学科の教授を兼務。

アーロン・ケイ(Aaron Kay)
デューク大学フュークア・スクール・オブ・ビジネスの教授、および同大学の心理学・神経科学学科の教授を兼務。

ジェ・ヤン・キム(Jae Yun Kim)
デューク大学フュークア・スクール・オブ・ビジネス博士課程の学生。