ファストトラックに乗せて
短期間で経験を積ませる

――ただ、時間がかかりそうです。

 これまでの日本企業における人材育成の観点では、30年となりますが、それでは間に合わないので、10年くらいのスパンで行うことを目標にします。スピード感を持ってこのサイクルをまわします。

 たとえば、欧米の大企業では、CEOはだいたい50歳くらいです。そこからバックキャストして、25歳でどれくらいのことをしている必要があるのか、30歳ではどうか、というふうに、ベンチマークを決めています。同じように、イノベータープラットフォームでは、早いサイクルでこの経験を積ませるルートをつくるのです。

 これを私たちは、「ファストトラック」に乗せると表現しています。人事制度などから作っていては、それだけで10年くらいかかってしまうので、制度にはこだわらず、人の動かし方の実態としてそのようにしていくのです。

 ファストトラックは、従来からあるエリートコースや幹部候補生コースとは違います。体力的にもメンタル面でもタフでなければなりません。抜擢された人は「若いくせに生意気だ」と言われて邪魔にされても、それをものともせず、その雑音を排除する強さが必要です。これは抜擢する上司も同じです。

 ファストトラックに乗ったからといって、役員への道が保証されていたり、出世が約束されていたりということはありません。経験を積んでもらい、5年ごとなど一定期間ごとに目標を設定し、そのときどきのゴール時点でパフォーマンスをレビューして、目標に至らなければ、ノーマルトラックに戻すという柔軟で弾力的な運用が必要だと思います。

 人材育成にもリスクをとっていく。スピード感を持ってメリハリをもってやっていくということです。

――東京大学で新しく設置した社内イノベーターコース(東京大学経済学研究科マネジメント専攻社内イノベーターコース)は、まさにこれを大学院教育で行う試みですね。

 企業内でイノベーションを起こせる、プロデューサー的な人材の育成を目指して開設したコースです。2017年から募集を始めました。

 デジタルとアナログ両方の最先端の知識を学び、現実に基づいて、理解を体系化します。

 デジタルとは、ICT、AI、データマネジメント、ファイナンス、アーキテクチャなどを指します。また、アナログとは、設計情報をどのようにイノベートするか、固有の技術がどのようにマネジメントされているかなどの知識で、これに加えて、普通は大学では教えない組織力学、ポリティクスなども学びます。

 このコースの最大の特徴は現場力を重視し、企業で長期のインターンシップを行うことです。1年目は国内企業に5~7週間勤務します。現場でインターンとして働き、あるテーマやプロジェクトの一員としてミッションを与えられます。2年目は欧米の大学・企業やシリコンバレー内の企業で数カ月間働きます。大企業のなかでのイノベーターですから、前述したような、自分でアイデアを出す力、デジタル技術の最先端の知識、グローバルな視点、社内外の最適な人物や経営資源を引っ張って来る力などを養成します。

 このように、机上の空論ではなく、企業に入って実際にイノベーションを起こせる実務家を育成するプログラムです。実はインターンシップでの評価が高くて、すでに修了後の内定も出ています。

――大企業で機能して、イノベーションを起こせる存在を育てるというところが特徴ですね。

 日本企業がいま目指すべきなのは、従来のような連続的な改善の力は維持したまま、組織として急激な変化に対応する力を加えることです。そのために人材の流動性と役割の多様性を増やして、新たな組織バランスを追求することです。

 日本企業がこれまで蓄積してきた独自の能力とアーキテクチャ構築能力の組み合わせです。そこで重要なのが、「社内イノベーター」という役割あるいは人材だと考えています。