イノベーション成功企業に
共通して存在した4つの役割

――そういうバランスを的確にとっていくための方策はありますか。

 日本にはヒト・モノ・カネ、すべてが十分にあります。ネットワークや施設も充実しています。ただ、それを結合できていないことが問題で、そこに優先順位を置くべきです。

 私たちの研究グループは技術開発だけではなく、市場開拓や、ビジネスモデルの創出も含めた、広い意味でのイノベーションを起こした大企業十数社の事例を調査・分析しました。ここでいうイノベーションは、一人の起業家が自らのアイデアに基づいて事業を起こして資金調達をするというモデルではなく、大企業のなかでのイノベーションです。どういう形で、どのような人材が活躍し、その時の組織形態はどうであったのか、を探りました。

 そして、それらの成功企業に共通するものとして4つの役割を見出しました。それぞれの役割を担う人材や仕組みが必要なのです。

――具体的にはどのようなものですか。

 第1に、そもそものアイデアを生み出す人です。こういうビジネスが可能ではないか、こういった市場開拓ができそうだ、こういう技術を生み出せそうだ、などのアイデアです。

 第2に、そのアイデアを拾い上げて、実際にやってみようと、社内外を駆けずり回って支援者や協力者を募る人です。マーケットでテストをしたり、ステークホルダーの意見を聞くための場を作ったり、アイデアを形にするための、中と外の経営資源の統合を同時に行えるような人です。アイデアを事業へと膨らませる役割です。

 第3に、専門性が高く、海外のトップレベルも知る人で、アイデアを出した人の名脇役として、専門的な技術や知識の部分を支え、実際の生産過程などへの橋渡しをする人です。これは、フェイズごとにそれぞれ専門性の高い人が入れ替わり立ち替わり協力する形を取ります。製品開発の過程、生産の過程、量産の過程などで順々に脇役が変わっていくようなイメージです。

 4つ目が一番難しいのですが、経営陣や役員クラスで、自らリスクをとって、アイデアが事業に成長するまで、困難に一緒に立ち向かい、イノベーターたちを擁護する存在です。「なぜ優秀な人材を芽も出ていない事業に使うのだ」「資金を使いすぎだ」といった社内外の雑音からイノベーターたちを守る「ガーディアン(守護神)」です。この役割の人がいないと、いくら1,2,3の人たちが目覚ましい働きをしても、イノベーションは頓挫してしまうことが多いのです。

 大企業には1,2,3になりうる人はかなりの数がいると考えていますが、4は稀少です。大企業で4つ目の役割を機能させるには、掛け声ではなく、方針や仕組み、つまり役員がイノベーションに関わり、トライアルを支援すること自体を評価したり、それを報酬体系に反映する仕組みをつくったりすることが必要でしょう。失敗しても失脚しないような制度です。

――それらの役割を担う人は、どのように育てればよいのでしょうか。

 研究の結果、4つのうち、「社内イノベーター」と呼ぶべき、主として2に当たる人のプロファイリングはできました。

 ただ、社内イノベーターとして成果を出した人は、もともとの資質だけでなく、その後の経験の積み方と、活躍の場の与えられ方に共通性がありました。そこで、その共通点を抽出してそれを経験させるようなプロセスを組めば、社内イノベーターを量産できる仕組みをつくれるのではないかと考えました。

 つまり、ただの偶然の重なりや、天才を待つのではなく、意図的に社内イノベーターを再生産するための「イノベータープラットフォーム」をつくるのです。

 第一段階は、採用時にどのような資質を持つ人を獲得すればいいか。知的好奇心が旺盛、新しい組み合わせを考える発想力がある、前例のないことに挑戦する気質がある、具体的な成果を追求する、成功や失敗の経験そのものから学ぶ力がある、やりきる力がある、顧客目線を持てるなどです。

 次の段階は、どのように育て、経験を積ませるかというキャリアデザイン。ここでは、リスクを取って新しいことに挑戦せざるを得ない経験をさせたり、収益に対して責任を持つ経験をさせたりする。あるいは、技術と事業の両方を経験させる。同時に学際的な研究や業務の経験をさせ、当該分野でのグローバルな水準を知る機会を与える。

 その後に、適切な機会を与えて挑戦させ、活躍させる。このステージでは、ビジネスモデルや戦略立案をつくり、市場と顧客についての深い理解を持つこと、技術者としてのすぐれた力量を持ちながら、世界中の新技術を探索し、導入できること、新製品への情熱と実績を持つこと、社内外の各部門から協力を取り付けられ、人を動員できる能力を備えていること、が必要になります。あるいはさらにその力を伸ばす。

 日本企業には、採用した社員に長期的にコミットするという風土があります。これは、先のプロセスに人を乗せて成長を促すうえでは、大きな強みです。イノベータープラットフォームに人を乗せれば、その人の持っている力を十分引き出せるはずです。