モバイル決済の普及はサービス業の生産性を向上させる

――2017年4月から2018年3月にかけて深センに長期滞在し、フィールドワークを行ったそうですが、「これは驚いた」という製品・サービス、ライフスタイルやビジネススタイルは何ですか。

テンセントの新本社ビルが建つ南山区。ビルの前にはウーバーイーツのような宅配サービスの配送員が多くいる(提供:伊藤亜聖氏)

 1つは、都市開発のスピードの速さです。テンセントの新本社ビルが建つ南山区は、3、4年前までは空き地が目立ちましたが、地下鉄や道路などのインフラ整備が急速に進み、ハイテクベンチャーやベンチャーキャピタルが集積する一大拠点になっています。

 2つ目は、やはりモバイル決済の普及です。だれからでも、どこからでも、無人で代金が回収できるモバイル決済があるからこそ、シェアサイクルやシェア雨傘、フードデリバリー、チケット予約、公共料金の支払いといった新たなサービスが生まれました。

 たとえば、レストランに行くと、そこには紙のメニューはなく、スマホでQRコードを読み取ると、メニューが表示され、注文できる仕組みです。注文と同時に決済もできるので、極論するとレジも必要ありません。利用客にとってはレジに並んだり、お金を探したりする時間がいらなくなりますし、レストランもおつりを数えなくて済むわけです。

 モバイル決済のある社会とない社会とでは、サービス業の生産性に大きな格差が生じることとなります。モバイル決済の普及は深センに限った話ではありませんが、若い人口構造を持ち、エンジニアの多い深センでは、輪をかけてこうした社会実験的なサービスの導入が進んでおり、私は「社会実装先進都市」と呼んでいます。

 3つ目は、コミュニケーションのあり方です。ベンチャー業界では徐々に名刺がなくなりつつあります。名刺交換の目的はメールアドレスやメッセージアプリのアドレスなど連絡先の交換です。デジタル情報を一度紙に落として、物体で交換し、またデジタル情報に戻すのであれば、デジタル-デジタルで情報交換したほうが効率的だということで、コミュニケーションの場面でもデジタル化が進んでいます。

 たとえば、イベント会場で講演を聞きに行くと、QRコードが表示されていて、その場で「微信(ウィ―チャット)」のグループチャットがつくられます。リアルタイムで、会場にいる大勢の参加者と情報を共有する体験はなかなか面白かったです。中国でベンチャー・エコシステムが急速に発達したのは、資金面でのサポートだけではなく、コミュニケーションの加速も背景にありそうです。

 現地の若者を見ていると、彼らはウィ―チャットをまさに“使い倒して”います。日本ではコミュニケーションアプリのLINEが普及していますが、どれだけの人が徹底的に使い倒しているでしょうか。東京の若者が送受信する1日当たりのメッセージ量と深センの若者のメッセージ量とでは明確な差がありそうです。