●意志力で始める

 意志力はあてにならないから頼りにしないほうがいい、と主張する著作は数多くある(そのうちのいくつかは、私が書いた)。だが、重要な発見をしたので共有したい。意志力は、長期間にわたる場合ではなく、限定された瞬間ならば、ずっと信頼できる。だから、アルコール依存症でも断酒に成功する人は、「今日1日だけ、飲まずに過ごそう」と考える。

 場合によっては、向こう側に到達するために、強制的に自分を動かす必要がある。私の場合、最初は冷水浴を容易にする方法がなかったので、水風呂に入るために意志と規律、すなわち純然たる勇気を振り絞らざるをえなかった。

 ●何度も繰り返す

 週が進み、冷水浴を繰り返すうちに、水風呂に浸かるのが容易になっていった。慣れたからだが、私自身の期待と習慣とコミットメントが強固になったからでもある。

 実際、私は最初から、絶対に温冷交代浴をやり抜こうと決めていた。不安も、熟慮も、躊躇もねじふせよう、とも決めていた。そして私の心が、一時的とはいえ抗議の声をあげても、ただ無視して体を動かし続けた(ある朝のことを今でも覚えている。温かい風呂から出て、水風呂に向かう間、私の心はこう叫んでいた。「本気でこんなことをしたいの? この快適な温かい風呂にいようよ」。だが、私の体はただ水風呂へと進み続けた)。

 ●適応力のメリットを享受する

 その週が終わるころには、私の体は、文字通り変わった。水風呂に入っている時間が60倍も長くなり、しかも、ほとんど寒さを感じなくなった。精神的にも肉体的にも困難だと思わなくなり、もはやトランジションを辛いと実感しなくなった。そして、冷水浴中の認識も変わった。最初は極めて不快だったのが、すがすがしく感じるようになったのだ。

 水風呂に入ることが、難しい話し合いをしたり、提案書を作成したり、あるいは、批判に耳を傾けたりすることと同じでないことは承知している。冷水浴が肉体的チャレンジであるのに対して、他の例はすべて精神的かつ知的チャレンジだ。冷水浴のチャレンジは容易だが、仕事のチャレンジはより複雑だと感じる人もいるだろう。

 だが実際には、すべて1つの大きな心理的チャレンジだ。しかもたいてい、それほど複雑ではない。複雑だと感じるのは、先延ばしにしようと、心がささやきかけてくるストーリーに過ぎないのだ。その原則と解決策は、同じである。すなわち、快から不快へのトランジションがうまくなることだ。

 さっそく、なかなかあなたが取り掛かれずにいるあのことに、以下を適用しよう。

 1. あなたにとって重要で、先に進めたいという気持ちはあるが、なかなか着手できないことを特定する。

 2. そのことに取り組むためのトランジション・ポイントを特定する。トランジション・ポイントとは、たとえば、以下がある。(話し合いのために)電話をかける、(いかなる種類の執筆でも)椅子に座って最初の一文字を書く、(フィードバックを受けるために)問いかけて、自分が話すのを止める。

 3. 決断をする。つまり、取り掛かる時間と場所(トランジション)を設定する。

 4. 心の勇気を奮い起こす。困難なことに着手すれば、さまざまな不快感が呼び起こされる。それでもやめずに切り抜けるには、さまざまなことを感じる覚悟をしておく必要がある。私はこの覚悟を「心の勇気」と称している。向こう側にたどり着くまでの時間、その千々に乱れる感情に耐え続ける意志があるだろうか。どんなことでも取り掛かるには、この強い意志が必須のスキルであり、それは磨くことが可能なスキルだ。以下は、トランジション中に感じるであろう感情の例だ。不快、懸念(「永遠に続くのかな」)、妨害(「メールをチェックしたほうがいいかな」)、自信喪失(「私には無理だ」)。

 5. 疑わずに、最後までやり通す。頭の中で繰り出されるノイズをコントロールすることはできないが、その間をくぐり抜けて、すべきことをやり抜くことは可能だ。

 6. これを毎日繰り返す。

 トランジションは短期間だということを覚えておこう。それが新たな日常になるわけではなく、新たな日常までの移動期間にすぎないのだ。

 さて、短期のトランジションを目指し(そして、トランジションのスキルを磨くために)、いますぐ、気にかかっているあのことを少しでも前に進めるために何かしよう。たとえ1分しか時間がなくても、である。

 もしいま、躊躇したのなら、どんなことが心に浮かんだか観察してみよう。心の向かう先を追うのだ(「時間がない」「ばからしい」「1分なんて何もできない」など)。

 どんな言い訳を心がささやきかけても、動きを止めてはいけない。さあ、思い切って飛び込もう。


HBR.ORG原文: How to Actually Start the Task You’ve Been Avoiding, May 30, 2018.

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ピーター・ブレグマン(Peter Bregman)
ブレグマン・パートナーズCEO。同社はシニア・リーダーを対象として、組織にとって最も重要な任務について、説明責任を喚起して集団行動を鼓舞するためのアドバイスを行っている。既刊に『最高の人生と仕事をつかむ18分の法則』がある。最新作は2018年7月刊行のLeading with Emotional Courage。「ブレグマン・リーダーシップ・ポッドキャスト」のホストも務めている。彼の配信するメールを受信したいときは、こちら