私は、米国カリフォルニア州ビッグサーにあるエサレンに滞在していた。太平洋に張り出している崖の上にある絶景のリトリート・センターで、リーダーシップ・コーチ・トレーニングを実施していたのだ。毎朝、朝食前に、私は同じ儀式をした。温泉で体を温めてくつろぎ、それから凍るような冷たさの水風呂にどっぷり、できるだけ長く浸かるのである。それを全部で3セット繰り返した。

 このように温冷交代浴をしていた理由は、血行によいとされているからで、また活力も出るからだ。思いがけない発見は、水風呂に入る秘訣が、成功している人たちの実践している難しいことをやり遂げる秘訣と同じだったことだ。

 順を追って説明しよう。初めて水風呂に入る前、私は温泉に20分間浸かって、ああでもないこうでもないと考えてから、ようやくトライする勇気をかき集めた。初回、水風呂に入っていられたのはわずか5秒で、すぐに飛び出して震えながら大急ぎで温かい湯船に戻った。

 だが、その週が終わる頃には、ためらうことなく水風呂に入り、ひんやりとした爽快感を味わいながら、5分以上冷水浴でリラックスし、まったく震えなかった。

 人の心と体には、ほとんど何にでも適応するという、信じられないような能力が備わっている。たいていの場合、難しいのは新しい環境にいることではない。新しい環境に移る過程が、困難なのだ。

 難しいのは、トランジション(移行)である。

 さて、ここでもう一度、あなたがなかなか取り掛かれずにいることを思い浮かべてほしい。賭けてもいいが、あなたが苦労しているのは、そのことそのものではなく、それに取り組み始めることのはずだ。

 何であれ、ことを進めるにあたり、最大の問題は取り組む状態へのトランジションだ。たいていの場合、快適なこと(温浴、簡単なメールの送信、単純な仕事を片付けて「To Doリスト」にチェックマークを入れること、事務処理のための会話を終えること)から、不快なこと(冷水浴、提案書の作成、困難な話し合いを始めること、真っ白なページに向かうこと)へのシフトを意味する。

 最も重要な仕事を前に進めるには、その仕事のスキルに熟達している必要があると、私たちは考えがちだ。だが、実はそうではない。実際に熟達しているべきは、仕事を始める前の時間を切り抜けるスキルなのだ。

 ひとたびトランジションが完了すれば、その後は仕事自体を着実にこなし、時間を重ねることでその仕事に熟達する。

 すなわち、本当に磨く必要があるスキル(そう、これはスキルなのだ)は、トランジションを切り抜けるスキルである。

 先ほどの温冷交代浴に戻ろう。温泉と水風呂の間を日に数回行き来することが、私にとって快と不快の間のトランジションを切り抜ける訓練になった。快と不快というのは、単なるメタファーではない。実際に、切り替えを心地よいと感じるようになったのだ。

 1週間にわたる温冷交代浴を通して、私はトランジションを切り抜ける能力を構築する3つのステップを発見した。