このようなアイデンティティをめぐる葛藤は、往々にしてマネジャーの目からは見えず、対処が困難である。イノベーションの専門家による、自己の役割認識、およびオープン・イノベーション手法への受け入れ姿勢に、マネジャーはどのように影響を及ぼすことができるのか――。我々はこの点を理解するために、さらに2年、NASAに留まった。

 観察の結果、エンジニアと科学者の目を、彼らの仕事におけるより高次の目標へと向けさせることが、決定的に重要であるとわかった(これはNASAでは、火星への着陸という、より大きな使命へのフォーカスを意味した)。また、オープン・イノベーションの手法を「研究開発の専門家にとって、使命のより迅速な達成が可能になるツール」として再提示することも不可欠だ。

 ある科学者は、次のように表現した。「結局のところ、個人的な課題よりも、もっと壮大な課題に向き合いたいのです。科学とは、真実を発見することですから!」

 より実務的な側面として、マネジャーは「解決策の探求」を奨励し、褒賞すべきである。成功を遂げた研究開発組織では必ず、問題解決者にまつわる英雄譚があるものだ。しかし必要なのは、そこから進化して、解決策をクリエイティブな方法で見つけ出すイノベーター(自力で問題を解決しなくても、どこの誰からであれ解決策を探し出してくる人)を称えるようになることだ。

 こういうイノベーターにこそ、スポットライトを当て、リソースを与えなくてはならない。そして、解決策の探求を第一に考える人には、特許や出版という動機づけのみではなく、金銭的な褒賞を与えるべきである。

 イノベーションとは、革新的な技術や科学を手にすることだけではなく、イノベーションのプロセスそのものを革新することでもある――そう伝えることが重要である。アインシュタインの有名な言葉にあるように、「問題を生み出したときと同じ思考法で、その問題を解決することはできない」のだ。

 すべての科学的・技術的問題に適した、単一のプロセスなど存在しない。研究開発の専門家は、もっと実験的に思考し行動すれば、仕事の方法における根本的な変化を受け入れることがより容易になるはずだ。


HBR.ORG原文:A Study of NASA Scientists Shows How to Overcome Barriers to Open Innovation, May 29, 2018.

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ヒラ・リフシッツ・アサフ(Hila Lifshitz-Assaf)
ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネス助教授。情報・オペレーション・経営学を担当。ハーバード大学のバークマン・インターネット・アンド・ソサイエティ・センターのファカルティ・アソシエイトでもある。

マイケル L. タッシュマン(Michael L. Tushman)
ハーバード・ビジネス・スクールのポール R. ローレンスMBA1942年同期生記念講座教授。経営管理論を担当。イノベーションおよびリーダーシップ、変革に特化したボストンを本拠とするコンサルティング会社、チェンジ・ロジックの取締役も務める。チャールズ・オライリーとの共著に、Lead and Disrupt(未訳)がある。ツイッター(@MichaelTushman)でも発信している。

カリム R. ラカーニ(Karim R. Lakhani)
ハーバード・ビジネス・スクールのチャールズ・エドワード・ウィルソン記念講座教授。経営管理論を担当。同校のドロシー・アンド・マイケル・ヒンツェ記念フェロー。ハーバード・イノベーション・サイエンス研究所の創設理事でもある。