最後のとき、というのは、それがキャリアであっても、現実の死であっても、私たちは受け止めるのに苦労する。しかし、終わりのないキャリアは句読点のない物語と同じだ。長く続くほど、意味がわからなくなっていく。

 より自由な働き方が浸透し、人々が常に新しいキャリアを求め動き続けるのであれば、働く私たちも雇用する側も、より価値あるキャリアの幕引きを学ぶ必要がある。終わったキャリアに敬意を表する時間や、それを実践する場所がなければ、仕事に意義を見出すことは難しい。

 デザイナーのヤン・チップチェイスは、大型プロジェクトが終わったあと、ポストモーテム(事後分析。直訳すれば「検死」)を忠実に実行するためのキャンプを開催している。また、より意義深い企業イベントのコンサルティングを行うプリヤ・パーカーは、公の場で互いの距離を縮める企画を企業に提案している。米国で毎年恒例の各界のリーダーが集まる非公式の集い「ルネサンス・ウィークエンド(Renaissance Weekend)」の閉会式で行われる、「これが私の人生最後のスピーチだとしたら」という企画は、その好例だ。

 職場の送別会はNet-a-Porterのマーク・セバCEOの退任セレモニーのように派手な演出でもいいし、ヘリコプターで立ち去る米国大統領の退任のように正統派を貫いてもいい。重要なのは、「キャリアの1章が一時停止するのではなく、終わるのだと認識すること」だとパーカーは語る。

 バルサのモットー 「més que un club(クラブ以上の存在)」は、クラブの志が単に試合の勝敗にとどまらないことを示している。彼らにとって、試合に勝つだけでは十分ではなく、勝ち方にもスタイルを追求する。

 今シーズン、バルサはスペインリーグとキングスカップで優勝を果たしたが、バルサの象徴である美しいプレーがほとんど見られず、ファンは物足りなさを感じていた。しかし、そんな不満もこの日だけは忘れ、ファンはイニエスタに別れを告げた。

 セレモニーの後、イニエスタにスタジアムを解放したことは、バルサに何の具体的な見返りもないことだった。一銭の利益ももたらさず、何の得点にもならない。それでもなお、バルサの精神や流儀を貫くために、必要なことだった。

 その夜バルサは、一人の優秀な選手を失った。同時に、ファンに忘れ得ぬ思い出を贈った。生身の人間としてのイニエスタの姿に多くのファンが自分を重ね、心に刻んだのだ。それが、キャリアのエンディングを真摯に受け止める組織の本当の力なのである。


HBR.ORG原文:Andres Iniésta’s Farewell, and How to Make Endings Count at Work,  May 30, 2018.

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ティム・リーバーレヒト(Tim Leberecht)
コンサルティング会社ビジネス・ロマンティック・ソサエティ(The Business Romantic Society)共同設立者。著書にThe Business Romantic(未訳)がある。

 

ジャンピエロ・ペトログリエリ(Gianpiero Petriglieri) 
INSEADの組織行動学担当准教授。同大学院で新興市場のエグゼクティブに向けた看板コースである「マネジメント・アクセラレーション・プログラム」の指揮を執る。精神医学を専門とする医学博士でもある。リーダーシップ育成を研究・実践する。ツイッター@gpetriglieriでも発信中。