ブレストは「乗っかる」
大阪弁は「拾う」

 多くのベンチャーは、アジャイル組織の競争力に磨きをかけて勝ち残っています。存続するために選択した仕事の進め方や組織形態がアジャイルで、そうした組織が残存するというのは生物の進化論のようです。

 面白法人カヤックCEOの柳澤大輔氏は、自社と、話題の書籍『ティール組織』(フレデリック・ラルー著、英治出版)で著されている進化型組織「ティール」に共通する部分がある、と書いています。ポイントは、組織が自律的なところです(詳しくは今号をご参照ください)。

 取材した経験を付記すれば、同社のブレインストーミング(ブレスト)は注目の経営手法と言えます(「トヨタ生産方式」のように他社も参考にできる一方、本家の領域にはなかなか達せない代物かもしれません)。

 取材当日は、独自開発した「ブレストカード」(Amazonなどで購入できます)を使って、同社の顧客とブレストをしていました。カードゲームをするように楽しむことが大切のようで、誰かが発言し終えたら他の人は、「いいね!」と言ったり拍手したりして、前向きに反応します。

 特集の論文に書かれているように、ブレストは前の人の発言に「乗っかる」(ふくらませる、連想するアイデアを出す)形で、数多くアイデアを出すことが肝です。会議などではつい他人の意見の課題や欠点を指摘しがちですが、ブレストでは他の人のアイデアを受けて発展させます。

 当日は笑いが絶えず、誰もが、思い付きのアイデアをポンポンと出していました。カヤックは、新入社員や新たにグループ入りした企業のメンバーに、ブレストを通して共通の組織文化を伝えているそうです。

 カヤックのブレストの話を反芻していて目に止まったのが、元大阪大学総長の鷲田清一氏が朝日新聞で連載している「折々のことば」で5月26日に紹介した書籍『大阪的』(津村記久子、江弘毅の共著、ミシマ社)の大阪弁についての言葉。「『ツッコミ』は『拾う』であり、その後のコミュニケーションに接続すること。ぴしゃりと一言で『これが正解だ』と示すのではない」という一節です。

 計画的あるいは短期間で解を見つけることができない問題へのアプローチとしてブレストや大阪弁の話法は有効であり、アジャイル変革には必要なコミュニケーション法であるように思います。

 アジャイルは、製品開発の新しい手法に留まるものではありません。まず仕事の進め方や組織、次に人材の評価や採用が変わり、さらには教育、そして企業文化に影響を与えていきます。

 今回の特集では、仕事の進め方から採用まではアジャイル先進企業の試みと成果についてご紹介できましたが、教育や組織文化の新たな形成等については今後の課題です。カヤックのブレストも、長期的な教育面でも有効かどうか、検証されるまでには時間が必要です。

 経営学の観点からアジャイル変革について論じている文献はまだ多くなく、経営現場で実践したり研究を深めたりするのは容易ではありません。特集を進めるに当たり、最近の文献では、アジャイルの発端であるソフトウェア開発から今日までの推移や、アジャイル組織における人材教育を論じている書籍『エンジニアリング組織論への招待』(広木大地著、技術評論社)が参考になりました。

 創造力が企業の競争優位にとってますます重要になる今日、それはすなわちいかに逸材に集まってもらうかにかかっています。市場の需要に応じて調達・供給するという経営手法は、商品、中間財、原材料と来て、社内外の人材にまで及んでいると見ることができるかもしれません。「アジャイル人事」はいま、最も重要な経営施策です。(編集長・大坪亮)