テスラにとって、「未来を描く日々」はもう終わった

 イーロン・マスクは、所有するすべての会社において、未来に関する説得力のあるビジョンを、顧客の想像力、そして等しく重要なウォール街の想像力を惹きつける形で示してきた。そのビジョンを現実のものとするために、彼は数十億ドルの資金を調達している。

 けれども、デュラントの物語はビジョナリー的創業者の課題の1つを象徴している。会社が「継続的な業務遂行」への移行を迫られているときに、目の前のことに集中し続けるのが往々にして苦手であることだ。

 デュラントがいくつもの物事に関心を抱いていたのと同様に、マスクは、テスラのCEO兼製品設計者であるだけでなく、すべての製品開発、エンジニアリング、デザインも監督している。スペースX(ロケット製造会社)では、CEOと主席デザイナーを務め、最先端のロケットや宇宙船の開発・製造を監督している。また、ボーリング・カンパニー(トンネル掘削会社)の創業者であり、OpenAI(人工知能を研究する非営利団体)の共同創立者兼会長でもある。

 これらすべての組織が画期的なイノベーションを推進しているが、マスクであっても、持ち時間は1日24時間、週7日のみだ。目の前の情熱に飛びついたり離れたりしている人は、CEOではなく単なる愛好家になってしまう、と見る向きもある。

 ビジョナリー的創業者に共通する性質の1つとして、反対論者の意見が間違っていることをひとたび実証すると、自分のあらゆる宣言には同様に、先見の明があると確信してしまうことだ。

 たとえば、モデルSセダンの成功の後、テスラの次の車は、SUVのモデルXであった。多くの報告によると、次期モデルの開発は単純な業務遂行であったはずなのに、マスクが機能の追加(ファルコンウィング・ドアやその他の装飾など)に固執したため、車の量産がひどく困難になったという。異を唱えた幹部(モデルSの成功に一役買った人々)は、退職に追い込まれた。のちにテスラは、思い上がりであったという教訓を得たことを認めている。

 テスラのモデル3は、シンプルな製造ができるように設計された。だが、既存の組立ラインは使っていない。マスクは次のように述べている。「真の問題、真の困難、そして最大のポテンシャルの在り処は、機械をつくる機械を構築することです。つまり、工場をつくることなのです。私は心の底から、工場を製品のように考えています」。モデル3は、組立ラインの「行き過ぎた自動化(over-automating)」として見事な事例となるかもしれない。

 現在テスラは、新たな製品の予定を次々に発表している。新型ロードスター(スポーツカー)、トラックトレーラーのほか、モデルYと呼ばれるクロスオーバーSUVの発売が示唆されている。どれも、単なるビジョンだけでなく、大規模な業務遂行を必要とするだろう。

 マスクはデュラントとは異なり、任期を延長した。また、2018年3月には株主から、「時価総額を約500億ドルから6500億ドルへと引き上げることができれば、新たに26億ドルの報酬が彼に付与される」という承認を取りつけた。取締役会は次のように記している。「報酬は、イーロンにテスラを長期にわたり主導してもらうための動機になるものと、取締役会は信じています。とりわけ、“他の事業に対する彼の興味関心をふまえて”そう判断しました」(強調は筆者による)

 けれども、テスラが「ビジョナリー的な先駆者」から「大規模生産が可能な信頼できる製造者」へと移行すべく悪戦苦闘している姿を前に、こう思う人もいるのではないだろうか。26億ドルは、テスラにとってのアルフレッド P. スローンを見つけるのにつぎ込んだほうがよいのでは、と。


HBR.ORG原文:To Understand the Future of Tesla, Look to the History of GM, April 16, 2018.

■こちらの記事もおすすめします
テスラの可能性は、従来のビジネス指標では測れない
戦略と実行の両面に秀でたリーダーに変わる方法

 

スティーブ・ブランク(Steve Blank)
スタンフォード大学の非常勤教授、コロンビア大学の上級研究員であり、カリフォルニア大学バークレー校でも教鞭を執る。ハイテクスタートアップ8社に共同創業者または初期メンバーとして携わる。全米科学財団(NSF)のイノベーション部隊の創設や、教育プログラムのHacking for DefenseおよびHacking for Diplomacyの開講も支援。