代わりに、高い生産性は質を悪化させるわけではなく、むしろ質の向上に貢献すると認識することも必要だ。我々は、仕事以外のさまざまな場面では、スピードの速さ(すなわち生産性を高める一要素)が質の一部であることを直感的に理解している。

 2014年のボストン・マラソンで優勝したメブ・ケフレジギはレース後、「フォームを意識したことが勝ちにつながった。足がどこに着地するか、腰・膝・脚・腕・首の位置はどこにあるか、常に意識して走った。上り坂ではあごをどこに向け、下り坂ではどうするかまで気を配った」とコメントし、スピードとフォーム(すなわち走りの質)の関係性を証明した

 自動車業界でも同じだ。最速のスピードは最高の品質として評価される。レーシングカーの部品や技術が、その後、乗用車に採用されるのはそのためだ。「自動車メーカーにとって、レーシングカーの開発は一般向け車両の試作品を作っているに等しい」のである。

 高い生産性が高品質につながるのは、レーシングカーの世界に限らない。コンピュータのショートカットキーはオフィスなどで身近に見られるわかりやすい例だ。ショートカットキーを使えば、時間が節約できるだけでなく、マウスでドラッグしたもの間違った場所にドロップしてしまったり、間違ったものをクリックしてしまったりという、うっかりミスが避けられる。

 生産性向上が質を損ねるという誤解はまた、仕事の現場に「品質至上主義」の風潮をもたらす。品質が重要なのは疑う余地もないが、質を最も重要な目標に据えるのが、よいことだとは限らない。質だけに過度にこだわることが、実際にはマイナスの結果を生む場合もある。3ヵ月かけて完璧な戦略プランを練り上げても、事業環境の変化によって使い物にならず、無用の長物となってしまうこともあるだろう。

 すべての仕事の最終目標は、インパクトを与えられるかどうかである。売上げにインパクトを与えられるか。利益に、あるいはコミュニティにインパクトを与えられるかが重要なのだ。生産性の高さを最優先する仕事のやり方こそが、最大限のインパクトを引き出す品質を約束するのである。

 私たちは企業研修を通じて、品質至上主義を標榜する企業で、社員が成果にまったく影響を与えない作業に時間を奪われていく姿を多く見ている。「会社が社内メールの規定を少し緩くしてくれたら、時間が節約できるのに……」。大手コンサルティング会社の社員は、ある研修でそう本音をこぼしていた。

 品質追求に必要以上の労力を割くことが成果につながらない理由は、「時間」という機会損失だ。時間が無限にあるのならともかく、限られた時間のなかで1つのタスクに集中するのは、他の何百という仕事を放棄することに他ならない。パレートの法則(仕事の成果の80%は費やした労力の20%から生まれるという理論)に当てはめれば、執拗なまでのこだわりが、いかに高コスト・低リターンであるかは想像に難くない。ときには細部に気を配らなければならない場面もあるが、それは本当に、そうすることが成果に大きく影響するときに取っておくべきだ。

 質とは対照的に、生産性は本質的に成果に直結する。生産性は与えられた時間内でどれだけの仕事をしたかで評価されがちだが、こなした仕事がどれだけの成果を生み出したかを生産性の指標とすれば、仕事の目的が、質ではなく生産性でなければならないことがおのずとわかる。

 こうした成果重視の企業風土が浸透している職場もある。テクノロジー分野における有名企業の多くでは、経営トップへのプレゼンテーションでもデザインが単純で、誤植だらけの資料が提出されることが珍しくなく、それでも、役員は気に留めないということがよくあるという。

 生産性の向上が質の低下を招くことはない。むしろ、生産性は質をいっそう高めるとともに、すべての仕事において最大限のインパクトを引き出す。品質至上主義からインパクト至上主義へと自社の企業文化を変えていくのは一朝一夕ではできないだろうが、まずは個人レベルで発想の転換をしよう。生産性に意識を集中させると質が下がると考えるのをやめ、自らの生産性の向上に取り組んでみてはどうだろうか。


HBR.ORG原文: The Lie That Perfectionists Tell Themselves, May 04, 2018.

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マット・プラマー(Matt Plummer)
ゼルバナ創立者。 同社が提供するオンライン従業員トレーニングプログラムは、知的職業人を対象に、より多くを、より短い時間で成し遂げるのに必要な行動変化を促す。ゼルバナ創立前の6年間は、コンサルティング大手ベイン・アンド・カンパニーから派生した会社で、非営利団体や財団法人、慈善家などを対象とした戦略・経営コンサルティング会社のブリッジスパン・グループに勤務。ツイッター(@mtplummer)でも発信している。

ジョー・ウィルソン(Jo Wilson)
持続可能な生産性のコーチングを行う。ゼルバナでは生産性を高める習慣を身に付けるeラーニングのコース、“Habit Development Path”を作成している。