従業員の仕事の質を高めるために、
リーダーとしてどんな支援ができるかを尋ね、耳を傾ける

 どうすれば仕事を改善できるかを従業員に教えるのではなく、そのために自分にどんな支援ができるかをまず尋ねよう。このやり方は、あまりに単純に思えるかもしれないが、大きな効果をもたらすだろう。

 前述した食品配達業者の事例を考えてみよう。従来のやり方が新しい配達業者によって破壊されていく事態を受け、経営陣は現状を変える必要があると考えた。優れた顧客サービスで競争しなければならなかったが、そのためには、サービスを提供する従業員の協力が不可欠だ。加えて、競争力を高めるためのアイデアも必要だった。

 経営陣は、プライスウォーターハウスクーパースのコンサルタントと会って研修を受けた後、ドライバーとの週次業績会議に新しい手法を取り入れた。

 その新しい手法とは何か。マネジャーたちは些細なことを問題にするよりも、ドライバーに「あなたが素晴らしいサービスを提供するために、私にはどんな支援ができるだろうか」とだけ尋ねるよう、訓練を受けたのである。ブラッドリー・オーエンズとデイビッド・ヘックマンの研究が示すように、従業員により優れた顧客サービスを提供してもらうには、リーダーはこうした奉仕的行動のモデルを確立する必要があるのだ。

 ご想像の通り、当初は懐疑的な見方が多かった。ドライバーのマネジャーに対する嫌悪感は強く、信頼感も低い。ところが、拠点マネジャーが「あなたが素晴らしいサービスを提供するために、私はどんな支援ができるだろうか」と質問し続けるうちに、一部のドライバーは提案をするようになった。

 たとえばあるドライバーは、ヨーグルト製品のゴーグルやストリングチーズのような新商品を早い時間帯に配送し、親が登校前の子どもの弁当に入れられるようにしてはどうか、と提案した。別のドライバーは、顧客が注文した食品が品切れにならないよう、もっと迅速に在庫不足を報告する方法を考えた。

 小さな変化によって、好循環が生じた。ドライバーは自分のアイデアが認められて採用されるのを目の当たりにすると、さらにアイデアを出そうと前向きになる。拠点マネジャーがそれに感心してドライバーに敬意を払うようになり、ドライバーの提案意欲はさらに高まる。

 また、拠点マネジャーは、ドライバーによる「ミス」と呼ばれるもののいくつかは、実際には彼らが編み出したイノベーションだったことに気づいた。プロセスをスリム化し、なおかつ全商品を時間通りに配達するための試みだったのだ。こうしたイノベーションにより、同社は顧客により優れたサービスを提供できるようになったのである。

 結局のところ、リーダーよりも現場で実務をする従業員のほうが、どうすれば素晴らしい仕事ができるかを心得ていることが多いのだ。彼らのアイデアを尊重し、業務改善のための新しいやり方を試すよう促せば、彼らはいっそう能力を発揮するようになる。

 あるエリアマネジャーは、次のように要約した。「我々リーダーは、ドライバーのことを十分に知っているつもりでしたが、たくさんのことを見落としていたと気づきました。いまでは、週1回の顧客対応会議はいっそう活発なやり取りがなされ、より率直かつ成熟した話し合いになっています。言葉で説明するのは難しいのですが、我々は数々の変化を目の当たりにしています」

リスクの低い「新規アイデア考案の場」を設ける

 時として、リーダーが従業員――ひいては会社――に奉仕する最良の方法は、従業員に独自のアイデアを試してもらうための場を設け、そこにリスクをあまり課さないことだ。そうすればリーダーは、従業員が勝手知ったる領域から一歩を踏み出すよう後押しできる。

 スタンダードチャータードのチェ・ジョンギュは、中国で消費者向け金融部門の責任者に就くために、シンガポールから転任した。その際、新しい勤務先で文化的に期待されることの1つは、支店を訪ねてマネジャーたちにコスト削減へのプレッシャーを与えることだと知った。支店のスタッフはやきもきしながら、何週間もかけて彼の訪問に備えた。

 ジョンギュはこうした訪問のあり方を改めた。自分の公式の権力を強調するのではなく、予告なしに支店に現れ、最初に従業員に朝食を振る舞った。そして、「ざっくばらんな打ち合わせ」をして、従業員の力で支店を発展させるために自分に何ができるかを尋ねたのだ。

 従業員の多くは非常に驚き、初めはどう反応すべきかわからなかった。しかし、やがて彼のやり方は従業員の不安を和らげ、アイデアの創出と斬新な発想を促したのである。

 ジョンギュは1年間で、25都市に点在する80あまりの支店を訪問した。従業員を助けようという彼の一貫したやり方と意志に、最初は懐疑的だった従業員も心を開いていく。

 打ち合わせでは、彼が容易に解決を手助けできる、単純な「悩みの種」がたくさん判明した。(たとえば、新しい銀行システムに関する研修、旧式のコンピュータで最新のソフトウェアを使うためのメモリーのアップグレードなど。)

 より大規模な革新のアイデアを寄せる従業員もいた。たとえば、上海のある支店はショッピングモールの中にあった。打ち合わせで従業員たちはジョンギュに、支店の営業時間を(通常の支店とは異なり)ショッピングモールの営業時間に合わせられないかと尋ねた。週末営業を試してみたかったのである。数ヵ月以内に、当該支店の週末の収益は平日の合計収益を上回った。これはジョンギュも想像すらしなかったアイデアだった。

 これらの試みは、会社のパフォーマンスの観点でも見返りを生んだ。ジョンギュが奉仕型のリーダーシップを実践した2年間で、顧客満足度は54%向上。同期間における顧客からの苦情数は29%減少した。中国の全外資系銀行の中で最も高かった離職率は、最も低くなった。

謙虚になる

 リーダーはしばしば、自分の管轄対象の本当の価値、とりわけ「低い階層」の従業員の価値に目を向けない。しかし、リーダーが謙虚になって敬意を払い、組織改善のために自分がどう奉仕できるかを従業員に尋ねれば、その結果は素晴らしいものになりうるのだ。

 加えて、これは会社の業績向上よりも重要かもしれないが、サーバント・リーダーになれば、よりよき人間として行動するようになるはずだ。


HBR.ORG原文:How Humble Leadership Really Works, April 23, 2018.

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ダン・ケーブル(Dan Cable)
ロンドン・ビジネススクール教授。組織行動学を担当。新著にAlive at Work(未訳)がある。