私は先日、あるひどい(けれども、ありがちな)会議に出席していて、いささか羨むような気持ちでサマールのことを思い出していた。1人のリーダーがとりわけ優秀な部下を30人集め、彼の言う「マーケティングギャップ」について意見を聞きたいということで始まった会議だった。

 だが会議の形式を見れば、彼には話を聞く気など、あまりないことは明らかだった。プレゼンテーションが3時間、質疑応答は全部で約15分しかなかったのだ(それもプレゼンテーションが時間を超過しなければ、の話である)。

 私は会議が終わったとき、このリーダーがやりたかったのは話を聞くことではなく、集まった30人に自分の意見を納得させ、彼の手先となって「マーケティングギャップ」を正すことなのだと感じた。会議の形式のせいもあって、結局、まったく納得できないままだった。

 このアプローチは、さほど効果がないにもかかわらず、よく使われる。組織の中であれ、政治的な討論であれ、夕食の席での家族会議の場であれ、一方のグループが他方に心変わりを迫る場面での常套手段だ。相手を説き伏せるようなカギとなるアイデアを見つけよ、説得力ある事実を探せ、熱く語れ、相手の事実をこちらの事実でたたき返せ、というわけだ。

 これは、永続的な変化を生み出す方法ではない。人の考えを変える最善の方法は、自分が持っている答えを語ることではなく、ともに同じ答えに到達することである。「自分のアイデア」を「全員のアイデア」に変える重要な手段は、話を聞くことなのだ。聞くことで、アイデアには必要な修正がなされる。聞くことで、アイデアに対する責任感が共有され、それがあって初めて、アイデアは実現できるのである。

 大きな決定を下したり、重要問題を討議する会議に出席したりする場合は、私がイノベーションとリーダーシップのワークショップを開く際に下準備として行なっている、次の習慣を試してみてほしい。

 インデックスカードかメモ用紙(紙ナプキンでもいい)を見つけよう。表側には、参加者にとって有益となる可能性のある主要なアイデアを書く。「可能性のある」と断っているのは、より深く学んだ後で、アイデアを修正することになるからだ。そして裏側には、会議でしたい質問と知りたい事柄を思いつくまま書き留めておく。

 たとえば、昨年ウィーンで開催されたグローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラムで、私はマーケティング界の先達ジョン・ヘーゲルやジュリア・カービー、イノベーションの権威ハル・グレガーセンとともに、「イノベーションを生む力」をテーマに企業幹部たちとのセッションに臨んだ。セッション開始前、私はインデックスカードの裏にいくつかの質問をメモした。

 ・このエグゼクティブたちはなぜ、私たちのセッションに参加しているのか。動機は何か。
 ・参加者たちの会社で「イノベーションを生む力」をめぐる根本的な問題は何か。具体的にはどんな問題なのか。
 ・参加者たちは、アイデアは豊富にあると思っているのか。それとも、アイデアが多すぎるのか。あるいは、質が低いと思っているのか。
 ・参加者たちにとって、イノベーションの問題点はアイデアの選択にあるのか、市場との結びつきにあるのか。実行に移せないことが問題なのか、それとも、何か別のところに問題があるのか。
 ・「イノベーション」を特定の文脈ではなく、一般的な言葉で議論できるか。それは有益な議論になるのか。
 ・参加者たちはいま、イノベーションについて誰の話に、あるいは、どのようなアイデアに耳を傾けているか。何が足りないのか。あるいは、なぜそのアイデアはうまくいっていないのか。

 最終的にすべての質問をすることはなかったが、書き留めておいたことで、私には相手の動機、ニーズ、感情に関心を持って話を聞く用意ができていた。質問のリストをつくっておけば、実際に話されている内容にしっかりと耳を傾ける態勢がつくれるだろう。

 たいていの人は、相手の話をしっかり聞いていない。ほとんどの場合、相手の話を聞くのは、賛成か反対か判断できるところまでに限られる。あるいは、どう言い返せばよいか準備するために聞いているにすぎず、何かを学ぶためではない。しかし、これでは相手の話を聞くというより、自分の話す番を待っているにすぎない。

 人の話を聞くとは、注意を払うということである。話を聞くとは、いったんみずからの関心事から離れて、より多くを知ろうと思うこと、そして、他人の関心事がどんなものかに思いをいたすことである。単に言葉を聞くだけでなく、潜在的なニーズや見解に注意を払うことなのだ。

 このことから、人がなぜなかなか優れた聞き手になれないかもわかる。私たちは、聞く側に回ると、自分のアイデアや、それがなぜ重要かを語れなくなるのが不安なのだ。聞いているだけでは、自分の信念を放棄しているかのように思えてしまうのである。

 だが、もっと自分を信頼したほうがいい。そして、相手も信頼しよう。


HBR.ORG原文:To Change Someone’s Mind, Stop Talking and Listen, February 06, 2018.

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ニロファー・マーチャント(Nilofer Merchant)
スタンフォード大学講師。これまでに100を超える製品を立ち上げ、その総売上げは180億ドルを超す。公的機関および民間企業の役員を務めてきた。現在は、スタンフォード大学で教壇に立つほか、世界中で講演をしている。経営思想のサイトThinkers50が選ぶ、世界で最も影響力のある思想家の一人でもある。最近刊はThe Power of Onlyness(未訳)。