発想の転換

 職場や取締役会で女性の比率を増やすのが正しい行動であることは、後発企業も理解している。だが、漠然とした考えでは足りない。

 エスティローダーのファブリツィオ・フリーダ社長兼CEOによれば、あまりにも欠けているものは、緊迫感だ。「自分たちはいずれ、目標地点に到達すると信じている。だが、それでは不十分だ。スピード感があまりにもないのである。本当の障害はそうした緊迫感の欠如にある」

 フリーダをはじめ、私たちが意見を聴取した経営幹部の多くは、意味のある変化は、経営幹部が言い逃れをせずに、スピード感をもって協働して初めて訪れると主張した。

 必要なのは目的意識、すなわち意思決定の基盤となる、一連の目標と動機付けである。ある企業において、それは取締役会における女性定員の数値目標を設定することであり、その他の企業では、固定された定数にこだわらず最初から候補者リストの多様性を確保するようにすることを意味するだろう。

 アルタのメアリー・ディロンCEOの説明によれば、「当社の取締役会では、多様性を維持または拡大するため、候補者リストが多様であるよう積極的に努力を続けている。意識するということ、そして、候補者リストに多様性をもたせることを念頭に置くだけでも、行動の後押しになる」

 ジェンパクトとマイクロソフト両社のリーダーたちは、柔軟性の大切さを理解しており、1名の定員を埋めようとして非常に有望な2人の女性に行き当たったので、2名とも取締役会に迎えることにした例を語ってくれた。

 基準の拡大

 一部の企業は最大限の努力をしているものの、女性取締役が少数であることを継続的な課題として挙げる。加えて、デジタル技術などの分野における個別の専門性への要望により、その範囲はさらに狭められているという。

 数の不足という現実を乗り越えるには、創造的な解決策に対する、オープンな姿勢が必要になる。1つには、取締役経験者の発掘に重点を置く従来の取組から、一歩先へと進むことだ。

 フロンティア・コミュニケーションズのダン・マッカーシー社長兼CEOは、同社取締役会の女性の多くは、取締役になるのは初めてだったと述べている。「私たちは、個々の候補者に積極的な期待を持っていた。すなわち、戦術的レベルから戦略的なレベルに移行できる人材を探していて、結果的には大正解だった」

 このアプローチは、有望な候補者を大企業と取り合って苦戦している中小企業には、特に有益なものになりうる。ジェンパクトのタイガー・ティアグラジャン社長兼CEOは、「会社の戦略に実際により深く関わり、影響を与えられる、中規模企業の取締役会に参加したがる人もいるだろう。対する大企業では、一般的なガバナンスの問題に、より多くの時間を割くことになりかねない」と見ている。

 さらにリーダーたちは、これまでのCEOや最高経営幹部の枠を超えて、司法界、学術界、またはソーシャルセクターなど、その他の分野で候補を探すことも有意義であり、バランスの取れた豊かな視点を取締役会にもたらすと語る。重要なのは、デジタルまたは財務の専門性など、妥協の余地がない部分を定め、次いで柔軟に対応できる部分を見定め、ジェンダーの多様性に関する目標を達成し、かつ個別課題に対応できるようにすることだ。

 活発なパイプラインの維持

 女性候補者の活発なパイプラインをうまく創出し、拡大することは、取締役会における一体化の取り組みを成功させる、最も重要な要素と言えるだろう。

 人材発掘を行う場合、これは候補者の選定において、個人のネットワークと調査会社の両方を活用することを意味する。個人のネットワークだけに依存すると、とりわけ取締役会が男性中心に構成されている場合は、候補者リストが旧来の学閥ネットワークから埋められ続けるリスクがある。調査会社だけに依存すると、非常に有能な候補者を発見できる可能性は高まるが、取締役会の個別ニーズに照らすと、必ずしもふさわしくはない人物である場合がある。

 さらに、若干の粘り強さも必要になるだろう。マイクロソフトのジョン・トンプソン会長が指摘するように、トップクラスの候補者は、関係の構築に2、3年かかる場合もある。労を惜しまずに可能性がある候補者を探そうとすることによって、たとえその努力がすぐに実を結ばないとしても、企業は長期的な基盤を築くことになる。オープンな形で多様性を探っている企業は、したがって長期的には利益も得る。

 IPGのマイケル・ロス会長兼CEOの話では、彼が多様性の支持者として評価が高まったのは、みずからが意図的に調査会社に対して女性候補者を要請したわけではないが、調査会社のほうから有望な候補者をどんどん紹介してきたことにあるという。

論理的に主張する

 私たちが意見を聞いたリーダーたちは、ジェンダーの多様性のプラス面を理解するという段階はすでに通過しているが、そこでの経験は、未だに懐疑派の説得に苦労している人たちにとって、有益なチェックリストを提供してくれる。

●取締役会の多様性は、才能ある従業員を引き入れ、モチベーションを向上することに役立つ。ジェンパクトのタイガー・ティアグラジャンが説明するように、「最高の人材を企業に集めるには、トップクラス人材の半分ではなく、すべてにアピールしなければならない。そのためには、強力な女性のロールモデルが必要になる」。

●顧客基盤を反映している取締役会には、より直観的なメリットがある。特に小売業者の場合は、世界の購買層の過半数が女性となっている。取締役会におけるジェンダーの多様性は、それだけで単純に、より優れた経営となる。

●多様性のある取締役会は、意思決定のクオリティを向上させる。パターソン・カンパニーズのスコット・アンダーソン会長、社長兼CEO(2017年当時)が語るように、「役員構成がより多様であると、議論のクオリティは飛躍的に向上する」。クローガーのロドニー・マクマレン会長兼CEOはさらに、「思いがけない視点から質問を受けるが、死角を避けるという点でこれが役に立つと思う」と加える。

 インタビュー対象者のうち数名が強調したのは、取締役会に女性を増やすことで話は終わりではないことだ。まず、取締役会の多様性はジェンダーに限った問題ではない。マクマレンが説明するように、「バックグラウンドの多様性は重要だと日頃から考えているが、経験や考え方、キャリアパスの多様性も大切だ」

 ピツニーボウズのマーク・ローテンバーグ社長兼CEOは、次のように語った。「具体的な数字は考えていないが、多様性がもたらす価値は評価している。私の考えでは、オーケストラの編成に少し似ている。さまざまな楽器がたくさん必要なのはわかっている。1種類を3つ、他方を2つ、または1種類を3つにして他方も3つにするのか、それは重要な点ではない。問題はすべての楽器をいかに融合させるかだ」

 もちろん、会社のあらゆるレベルにおいて、ジェンダーの多様性が不可欠だと認識することが重要だ。

 企業は、女性経営幹部を将来的な取締役会への参加に向けて準備させる、つまり損益責任を負う立場に配置したり、信頼関係の持てるメンターや指導者を持たせたり、取締役会が直面するガバナンスや戦略に関する問題に対応するうえで必要な知識とスキルを備えさせたりすることで、取締役会の一体性を推進できる。これにより好循環が生まれ、取締役会の多様性の発展スピードは高まり、懐疑派に対して今回の調査に登場したような成功例をもって対応できるようになる。

※本稿はMcKinsey Quarterly 2017年1月号掲載記事を翻訳したものです。原文は下記よりご参照ください。

原文:https://www.mckinsey.com/global-themes/leadership/how-to-accelerate-gender-diversity-on-boards

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